2017年9月30日土曜日

三度目の殺人


☆☆☆★★      是枝裕和    2017年

観終えて、複雑な気分である。
レベルは高い。吟味されたセリフ、ストーリーテリング、
キャラクターの造型はもちろん、見せる所・見せない所、
語る所・語らない所のバランスなど、ほんとうに見事。
でもこういう映画を「好きじゃない」と感じるひともい
るだろうなぁとも思う。『そして父になる』のとき私は
「意味のないカットがひとつも無いというのは、それは
それで観ていて疲れるものなのだ。」
と書いた。今回は同じ傾向がより悪くなって顕在化して
いるように思った。意味ありげな、思わせぶりなカット
が多くて、その裏に監督の「まあこのこと覚えといてく
ださいよ」とか「ほら、ここで伏線は回収したでしょ」
が見えてしまうのだ。ただとても微妙なラインで、ひと
によってはそれが映画的な快感にもなり得るのだが、な
まじ是枝さんがクレバーで理知的なひとである事を知っ
てしまっているがゆえに、それがうまく快感にならない
のである。ぜいたくな悩みかもしれないが…。

MVPは役所広司。『CURE』の萩原聖人を彷彿させる、
ガラス越しの接見だけで観るものに恐怖を与える不気味
きわまりない演技だった。そして制服をきちんと着た広
瀬すずの可愛さ…。

                                            9.24(日) 新宿ピカデリー


2017年9月28日木曜日

ダンケルク


☆☆☆★★   クリストファー・ノーラン   2017年

第二次大戦中、ナチス・ドイツ軍に包囲されたダンケルクの
街に孤立した連合国軍。歴史に残る撤退戦を"あの"クリスト
ファー・ノーランが描く。どんな映画になるか、わくわくし
ますね。つい初日に観に行ってしまいました。

ワンカットに注いだ情熱(と金銭)に圧倒される。これって、
沈没する船にGoPro何台か仕掛けて、使ってるのはこの2カッ
トだけか…みたいな。同時に、主役はこっちだと言わんばか
りの、すさまじい音量で襲い掛かる音響に度肝を抜かれる。
鑑賞にはストレスに耐える体力を要するので、これから観る
ひとはご用心。

演出にはいろいろと不満があるものの、ここにつらつらと書
き連ねるのは控えよう。美女どころか、ひとりの女のひとも
出て来ないが(いや1人だけおばちゃんが一瞬出て来た)、
それはまあここで言う不満ではない。なにはともあれ、劇場
は戦場と化す。映画館に赴いて轟音の銃弾を浴びるべし!

                                                9.9(土) TOHOシネマズ新宿


2017年9月25日月曜日

打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?


☆☆☆★      武内宣之     2017年

『花とアリス殺人事件』の時にも思ったことだが、たとえ
アニメであっても岩井俊二の特有のストーリー展開の仕方
というのは確かに感じられて、それがけっこう気持ちいい。
脇道にそれながら進んでいくといったらいいのか、意外な
展開をすると見せて、気付くといつの間にか本道に戻って
おり、また次にストーリーが動く時は脇道を転がって行く、
というような感じ。

今回は原作のテレビドラマに、花火の描写をはじめアニメ
でしかできない表現が付加されて、ストーリーも独自の展
開をしていく。「もしもあの時、違う選択をしていたら」
というのが、1回きりでなく何度も繰り返されるのが大き
な特徴で、それによりタイムリープの要素が強まる。しか
し当然、その副作用で「時をかける少女」に似てくる。

菅田くんはあまりうまいとは思わず。広瀬すずは個性のあ
る声でどうかなと思ったが、意外に邪魔にならない芝居で、
うまくなじんでいた。

                                            9.6(水) TOHOシネマズ新宿


2017年9月7日木曜日

【LIVE!】 サニーデイ・サービス


サマーライブ 2017

 1. 今日を生きよう
 2. 素敵じゃないか
 3. あじさい
 4. 八月の息子
 5. 江ノ島
 6. スロウライダー
 7. 経験
 8. さよなら!街の恋人たち
 9. 恋におちたら
10. 苺畑でつかまえて
11. 96粒の涙
12. 海へ出た夏の旅(〜再び)
13. セツナ
14. 白い恋人
15. シルバー・スター
16. 花火
17. 時計をとめて夜待てば
18. 24時のブルース
19. 週末
20. サマー・ソルジャー
21. 海岸行き

<encore>
 1. 忘れてしまおう
 2. 夜のメロディ
 3. 青春狂走曲

<encore 2>
 1. 胸いっぱい
 2. One Day

                                    8.27(日) 日比谷野外音楽堂

野音でライブを観るのもずいぶん久しぶりだ。
「サニーデイは野音に合うだろうなぁ」とは思ったが、
ほんとによく合った。天気もほどよく、緑をゆらす風が
心地いい。サニーデイとしては19年ぶりの野音とのこと。

MCは一切なしで、次から次へと新旧とり混ぜたセットを
プレイし続け、気づけば21曲。あっという間の本編が終了。
時に優しく、時に甘酸っぱく、時に狂気にほとばしらせる、
バンドの歴史をも感じさせる圧巻のライブだった。

チケットは普通にぴあで取ったが、なんと前から2列目と
いう超良席だった。ただ失礼ながら曽我部恵一はじめメン
バーはどこから見ても「もっと近くで見たい」という風貌
ではない。この運、別な時に使いたかった…。

ベストアクトは「96粒の涙」にしようかな。この曲好きな
んです。



2017年9月3日日曜日

トム・アット・ザ・ファーム


☆☆☆★★    グザヴィエ・ドラン   2014年

映画は主人公の若者(トム)が、友人の葬儀に参列するため、
友人の生家を訪れる場面から始まる。家人は不在。だが偶然、
鍵を発見してしまったトムは家に上がり、ダイニングで友人
の母親を待つことにする。しかし長時間の運転の疲れか、い
つしか眠り込んでしまう…。

友人の家は農場を持ち、酪農を営んでいるようだ。
死んだ友人、その奇妙な兄、息子の唐突な死に疑問を持って
いる母親。友人が不在のまま、友人の一家にからめとられ、
身動きがどれなくなっていくトムの様がなかなか恐ろしい。
しかし奇妙な兄の行動原理が不明というかなんだか人物像が
定まっていないような感じがしてしまう。そこが狙いなのか
もしれないが。

観終わって初めて知ったのは、トムを演じていたのがグザ
ヴィエ・ドランだったということ。これには驚いた。『息
もできない』で、ヤン・イクチュン自身があの頭の悪そう
なチンピラ役だったことにも驚愕したけど、グザヴィエ・
ドランもこう言ってはなんだが、風貌からはただのナイー
ブな若者に見えた。


                                                       8.19(土) キネカ大森