2017年12月31日日曜日

花筐


☆☆☆★★   大林宣彦   2017年

『グランド・マスター』がカンフーによる映像
絵巻物ならこちらは何だろうか。そう思ってい
たらモルモット吉田氏の評言に「デジタル紙芝
居」とあり、なるほどあの横ワイプは紙芝居の
紙のスライドだったのかと得心したのであった。

唐津を舞台にした極彩色の曼荼羅のようなフィ
ルムである。反復される赤のイメージ、奇妙な
ズームイン、色も素人がいじったような気持ち
の悪い色だし、CGも違和感満載でおかしい。
しかしこの圧倒的な熱量はなんだろう。
窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、いずれもよ
かった。特に蛇のような気味の悪い男を演じさ
せたら右に出る者はいない長塚圭史が最高。

                            12.26(火) 有楽町スバル座







<ツイート>
本年の営業はこれにて終了。
80本を目標として映画を観てきましたが、65本
という不本意な結果に終わりました。BSではそ
こそこ観ているので、もっと映画館に足を運ば
なければ。新作の鑑賞が21本というのはあまり
に少ない。来年は立てなおしを図りたいと思い
ます。では失敬。

2017年12月30日土曜日

グランド・マスター


☆☆☆★   ウォン・カーウァイ    2013年

映像絵巻物、といった観のあるカンフー映画。
偉大な師の死により勃発する流派どうしの抗争が描か
れるが、『仁義なき戦い』のような「獲るか獲られる
か」ではなく、卑怯なことはまずしない。きちんと形
式を踏んで勝たないと、それは勝ったことにならない
のである。戦いは様式美の極地のような、人間離れし
たものとなる。
途中「カミソリ」という異名の男のエピソードが挟ま
るのだが、本筋にまったく絡まず、いったい何だった
のか…。

                                        12.25(月) BSプレミアム


2017年12月29日金曜日

8人の女たち


☆☆☆★★★   フランソワ・オゾン   2002年

年の瀬になって、観る映画に思いがけずおもしろいものが
続いている。この映画、想像していた内容とはだいぶ違っ
たが、遊び心と真剣さと皮肉とのブレンド具合が絶妙で、
監督のたしかな手腕を感じる。

いわく「歌う推理劇」。
金田一少年の事件簿ばりに、外部と遮断された屋敷で殺人
が起こり、「犯人はこの中にいる」。犯人さがしが行われ
るが、登場人物が途中で歌い出したりする。カトリーヌ・
ドヌーヴをはじめとする錚々たる大女優たちも、コミカル
な振付けをノリノリで楽しんでいることが伝わってくる。

監督は若いイケメンで、準備段階では1人づつ相手に説明
すればよかったけど、撮影初日に8人の女優たちと相対し
たときにこれはエライことになったと思った(意訳してま
す)、みたいなことを正直にインタビューで喋っていてお
もしろい。

                                                            12.24(日) DVD


2017年12月28日木曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


マニアックヘブンツアー Vol.11

 1. ハッピーエンドに憧れて
 2. 証明
 3. 真冬の光
 4. 異国の空
 5. 白い日記帳
 6. 新世界
 7. 怪しき雲ゆき
 8. ミスターワールド
 9. 運命複雑骨折
10. 負うべき傷
11. ガーデン
12. 砂の旅人
13. 旅人
14. 青空
15. イカロスの空
16. 共鳴

Encore
 1. 夏の残像
 2. 天気予報
 3. ピンクソーダ
 4. さらば、あの日
 5. サイレン

                            12.24(日) 新木場STUDIO COAST

今年はついにマニアックヘブン「ツアー」である。
こうしてB面や目立たぬアルバム曲に光をあてるライブは
どのバンドもやりたいだろうが、やはり興行として成立さ
せるのは難しいのだろう。B面だろうと制作の手を抜かな
いバンドの誠実さと、B面も等しく愛すファンたちの誠実
さの結晶を見るようで、わたしはこのライブがとても好き
である。

今年は1曲ごとにベストアクトを更新していくようなすば
らしい展開で、『運命複雑骨折』でいったんピークを迎え
るまでの流れは、少なくともここ5年でもっとも優れていた
と思う。唯一『負うべき傷』だけは「はて…こんな曲あっ
たっけ」と思ってしまったが、それはこちらの勉強不足。
山田の声の調子も良く、言うことなしのすがすがしいライ
ブであった。

2017年12月26日火曜日

カラーパープル


☆☆☆★★★  スティーヴン・スピルバーグ  1985年

スピルバーグが『シンドラーのリスト』を撮ったこと
を知っている今の我々はこの映画をすんなりと受け入
れることができるが、『E.T.』や『JAWS』のような
映画を期待していた観客はこのヒューマンドラマをか
ならずしも歓迎せず、興行的に低迷し「賞狙いだ」と
いう批判もあった由。

そんなことは今となっては関係ないので…。
大河ドラマに弱いわたしとしては、この悠々としたリ
ズムでじっくりと展開していく黒人姉妹の絆をめぐる
感動作に、まことに素直に感動してしまう。
スピルバーグ万歳。すばらしい映画だった。

                                              12.23(土) BSプレミアム


2017年12月25日月曜日

ギャンブラー


☆☆☆★★   ロバート・アルトマン  1971年

この映画が71年当時、どう受け止められたのかは分からない
が…。すでに西部劇ははやらなくなっていたのではなかろう
か。しかし独特のリズムがあって、最後の降りしきる雪の中
の幾分だらだらした決闘も、良い味がある。
ときどきはさまるレナード・コーエンの歌が渋い。

                                                 12.14(木) BSプレミアム


2017年12月21日木曜日

読書⑫


『秘密の花園』
F. H. バーネット 著  畔栁和代 訳 新潮文庫

これも「題名は知ってるけどどんな話か知らない」
シリーズの一環で読んでみた。

インド生まれの偏屈な少女メアリ、こころ優しき野
生児ディコン、そしてみずからを奇病と思い込んで
いるコリン、3人の子どもと庭園をめぐる物語である。
「バスカヴィル家の犬」のように、ムーアと呼ばれ
るイギリス独特の地形(荒野)が物語の中心に据え
られ、広い屋敷の中のよく手入れされた庭園と対比
をなしている。庭園の塀に囲まれて、ある理由から
長い間放置された「秘密の庭園」がある、というわ
けである。
児童文学といえども、どことなく、たしかにイギリ
ス文学の香りがするのが、さすがイギリスであった。








『冥土めぐり』
鹿島田真希 著   河出文庫

芥川賞受賞作が文庫になると一応買うのだが、あま
り読まない。優先的に読もうという気になれないの
である。ときどき、こうして思い出したように読む。

ある日突然、障碍者になってしまった夫と一緒に、
熱海か箱根か分からないがあの辺の温泉地に旅行に
出かけ、幼い頃に憧れだった高級ホテルに泊まって
帰って来るという小説である。全体にいやーな感じ
が漂っているのはなんだろう。主人公が心中か自殺
を決意して出かけるが、それを思いとどまる話だと
私は思ったのだが、はっきりとそう書いてあるわけ
ではない。

他に「99の接吻」を収める。去年のトルコ映画の
「裸足の季節」を思わせる姉妹の話。もっとずっと
陰湿だが。

2017年12月18日月曜日

銀座カンカン娘


☆☆☆★    島耕二   1949年

高峰秀子と笠置シヅ子が歌って踊る、音声はノイズ
がひどいがなかなか楽しい和製ミュージカルになっ
ている。

五代目古今亭志ん生が出演しており、短縮版ながら
落語を披露するラストシーンがたいへん貴重らしい。

                                         12.12(火) BS日テレ


2017年12月14日木曜日

グレムリン


☆☆☆    ジョー・ダンテ   1984年

誰でもご存じの映画。
わたしも幼きころに観ているが、20年振りぐらいに
観ると、ほとんど何も覚えていなかったことに、驚き
を通り越して呆れてしまう。こんなに忘れるんなら、
いくら観ても意味がないんじゃあるまいか…。

まあ気を取り直して。ギズモ可愛いよねー。歌うしね。
最初に売ってもらった時は「モグワイ」という生物だ
と教わる。それを「ギズモ」と名付けた。変態して凶
暴になったモグワイを「グレムリン」と自然に人々が
呼び始めた。

グレムリンは機械にいたずらをする妖精的な存在なの
で、あいつらはメカに強いのである。除雪車は運転す
る、ターンテーブルでレコードはかける、なんでも使
いこなしてしまう。最後のおもちゃ屋での対決は少々
長過ぎて退屈した。

                                      12.8(金) BSプレミアム


2017年12月11日月曜日

いとこ同志


☆☆☆★★★  クロード・シャブロル  1959年

お人好しの田舎青年のシャルル(ジェラール・
ブラン)が、パリのいとこポール(ジャン=ク
ロード・ブリアリ)のもとで同居を始める。
まじめに禁欲的に試験勉強に励むシャルルに対
して、いつも女と遊び呆けているポール。声が
大きく、態度も不遜である。同年代に加えて、
うさんくさいおっさんともよくつるんでいる。
しかしいざ試験結果が出てみると…。
ヌーヴェル・ヴァーグの先駆けともいわれる映
画なのだが、『勝手にしやがれ』とか『大人は
判ってくれない』とかとは、あまり似た雰囲気
もないような。

少なくとも受験生には見せるべきではない映画
だね。

画像はジュリエット・メニエル。きれいなひと
であった。しかし出演作の一覧を見ると、あま
り多くない。

                                 11.26(日) BSプレミアム


2017年12月8日金曜日

恐怖のメロディ


☆☆☆★★   クリント・イーストウッド  1971年

イーストウッドの初監督作品。音楽のモチーフの使い方
や、起承転結がはっきりしている所など、イーストウッ
ドの「好み」は今でも変わっていないのだな、と思う。

みずから演じる色男のラジオDJのもとに毎夜かならず、

「ミスティ」をかけて(Play Misty For Me)

というリクエスト電話がかかってくる。熱心な彼のファ
ンなのだ。やがて相手と一夜限りの関係をもったイース
トウッドは、愛し合っていると勘違いした女の強烈なス
トーキングに悩まされる。ぐずぐずと中途半端な対応を
しているうちに行為はどんどんエスカレートし、お手伝
いさんはメッタ刺しにされ、恋人にも危険が迫る…。

ひとを刺すとき、いつも「あ゛ぁぁぁぁっ!!」と絶叫し
てから刺すのが最初はヘンに思ったが、じわじわ怖い。
日本でリメイクするなら、この狂女を演じられるのはや
はり松居一代しかいない!
イーストウッドはもちろん船越英一郎。

                                              11.25(土) BSプレミアム


2017年12月5日火曜日

普通の人々


☆☆☆★   ロバート・レッドフォード  1980年

ロバート・レッドフォード初監督作にして、高い評価を
受けた名作、と聞いていますよ。アカデミー作品賞をふ
くむ4部門を受賞。スタートとしては破格ですねぇ。

平穏な暮らしを営んでいた4人家族が、長男の事故死を
きっかけとして、少しづつ歯車が狂い始める。カウンセ
ラーが重要な役割を果たすので、「グッド・ウィル・ハ
ンティング」を思い出すひとも多かろう。
過度にセンセーションを起こさない淡々とした演出は、
いくら名優といえどもそれだけで出来るものではあるま
い。独特の嗅覚を備えていたということだろう。しかし
それほど慎重に、大切に演出するのが「家族が崩壊して
いく様をリアルに描く映画」というのが、以前からだけ
ど私には引っ掛かるのである。どうも観ていて良い気が
しない。それがリアルで克明であればあるほど…。
失恋とか挫折とかだったら別になんとも思わないのだが、
なんでだろう。あるいは私の深層心理に関わるのかもし
れない。

                                          11.24(金) BSプレミアム



2017年12月2日土曜日

ミニー&モスコウィッツ


☆☆☆★   ジョン・カサヴェテス   1971年

黒沢清が偏愛するカサヴェテス。前に早稲田松竹で
2本観てどうもピンと来ず、これでおもしろくなかっ
たらもう観ないと心に決めて観た。

モスコウィッツというヘンな男を軸に、話は進む。
長髪に髭のヒッピー風の外見、声は大きく態度はと
ことん厚かましく、まったく関係ないパーティーに
もぐりこんでは手当たり次第女に話しかけたり酒を
飲んだりして黒服に蹴り出されたりしている。出て
くる他の人間も変人ばかりで、いわば変人の見本市
の様相である。ヒロインのミニーは、中でも極めつ
けの変人のひとりにからまれているところをモスコ
ウィッツに助けられ、その変人ぶりに当惑しつつも
惹かれていく…。
それにしてもミニーはなんでこんなにも入れ代わり
立ち代わり怒鳴られなくてはならないのか。理不尽
である。

まあこの映画で見捨てるのはやめた。でもカサヴェ
テスの何がそんなに良いのかは分からないままだ。

                                     11.23(木) BSプレミアム


2017年11月29日水曜日

予兆 散歩する侵略者 劇場版


☆☆☆★★     黒沢清     2017年

「ホラー」に特化した別のストーリーという触れ込み
だったので、どれほどの恐怖が待ち構えているのかと
おそるおそる観に行ったが……ちっとも怖くない!

菊地凛子の夫(染谷)と爆笑ヨーグルト姫(夏帆)の
夫婦はこれまで穏やかに暮らしていたのだが、杏の夫
(東出)が同じ病院に勤めだした頃から、染谷くんの
様子がおかしくなり始める。

冒頭は何の変哲もないマンションの階段で、これだけ
でワクワク。黒沢清の映画を観る楽しみのひとつは、
黒沢が提示してくる人物の居ない画の「何の変哲もな
さ」に愉悦を覚えることである。もうひとつは「移動
ショットの愉楽」というものもある。とりあえずこれ
だけあれば俳優もストーリーもひとまずどうでもよく
て、それらが良ければもう儲けものというのが、一義
的に黒沢ファンの鑑賞法であると私は勝手に考えてい
る。

その意味では今回は、ホラーというには恐怖成分が少
なく、東出くんは顔は不気味だけどそんなに強そうで
はなく、染谷くんもそれほど精彩を欠くように見えた。
ヨーグルト姫は若干芝居が単調かな。役柄から言って
しょうがないかもしれないが。

                                        11.23(木) 新宿ピカデリー


2017年11月26日日曜日

ブラッド・ダイヤモンド


☆☆☆★   エドワード・ズウィック   2007年

シエラレオネのダイヤモンド採掘をめぐる血塗られた抗争
と搾取と悲劇をレオ様主演で描く。政府とRUFという人民
解放軍みたいなのとの内戦状態で、何万人という難民が発
生しており、RUFは子どもを拉致して洗脳し、兵士にして
いる。人権団体やジャーナリストも押し寄せているが、レ
オ様は南アフリカ生まれの元傭兵という設定。これまでも
紛争地帯で際どい取引を成功させて闇社会で生きて来た、
筋金入りのタフガイである。

いろいろあって子どもを拉致されたソロモンを相棒にして
幻のピンク・ダイヤモンドで儲けようと企み、戦場を駆け
抜ける。この戦場が、なぜかちっともハラハラしない。レ
オ様が死ぬわけないからというのも一因かもしれないが、
どうも漂白された戦場という気がした。死臭がしない。
ソロモンが難民キャンプで家族と再会するところなど、少
しわざとらしいところもあり、だいぶ興を削がれる。題材
がリアルでいくらでもおもしろくなりそうなだけに、惜し
い。

                                                11.18(土) BSプレミアム


2017年11月24日金曜日

ヘッドライト


☆☆☆★   アンリ・ヴェルヌイユ   1955年

先週号の週刊文春で小林信彦が久しぶりに連載を
再開した。慶賀すべきことだ。再開されたコラム
には「約一週間、生きるか死ぬかというところに
いたらしい」とある。脳梗塞の症状が出て緊急搬
送され、生死の境をさまよった由。

さて、本作は小林信彦も評価していた(と思う)
フランス映画。どう評価していたかは覚えていな
いが、少なくともフランソワーズ・アルヌールは
好きだと言っていたはず。

妻子もちのトラック野郎ジャン・ギャバンと、あ
まり理由は分からないが彼に惚れて駆け落ちのよ
うにトラックに飛び乗る女給のフランソワーズ・
アルヌール。いまでいうゲス不倫だが、映画の文
法に従えばこれは「許されぬ恋」そして「メロド
ラマ」ということになる。
ジャン・ギャバンはたしかに渋いが、美人女給が
くらくらするほどかなぁ。

原題は"Des Gens Sans Importance"で、「とる
にたりない人々」といった意味らしい。「ヘッド
ライト」という邦題は、まあ悪くない。

                                      11.15(水) BSプレミアム






2017年11月21日火曜日

読書⑪


『五分後の世界』
村上龍 著    幻冬舎文庫

ふと意識が戻ると、自分が何かの行軍に加わって密林の中の
細い道を歩かされていることに気付く。ここがどこで、今が
いつなのかも分からない。道はぬかるみ、空腹も疲労も耐え
難いが、列から落伍した者には死が与えられることだけは明
らか…。
という幕開けからして映画的というか、映画を観ている観客
の気分というか。やがてこの世界の一端が見えてきて、一種
のパラレルワールドに入り込んでしまったことが分かってく
る。それがどういう世界か言ってしまうとおもしろくないの
で言わないが。
エッジの効いたヒリヒリするような文体は心地いい。
戦闘シーンの描写など、力のこもったすさまじい熱量である。









『非道に生きる』
園子温 著   朝日出版社

映画監督・園子温がいかにして生まれたのかを語り下ろしで
一気に語り尽くした本。
早熟の詩人で、若くしてPFFの大賞を獲り、『自転車吐息』
という成功作がありながら、なおかつ40歳を過ぎて『自殺サ
ークル』でメジャーに殴りこんできた"遅咲き"の映画作家で
もある。つまりほとんど映画を撮れなかった期間が10年ぐら
いあるのだ。

私は御多分にもれずユーロスペースで『愛のむきだし』を観
て、その過剰さと疾走感とゆらゆら帝国にノックアウトされ、
以来ずっと監督作を追い続けている。正直いって毎回おもし
ろいわけでもないが、「次はなにが飛び出すか」という怖い
もの見たさではダントツで一番である。本書を読めばわかる
が、本人がまずもうめちゃくちゃな人である。もうどんな映
画を撮ったって驚かない。








<ツイート>
BRUTUSの「観てない映画」特集。私は50本中25本でした。
ちょうど半分。寄稿者の平均が29本(観てる)だったという。
まだまだ修行が足りないようなので、精進します。

2017年11月16日木曜日

アウトレイジ 最終章


☆☆☆★★      北野武    2017年

このシリーズも終わってしまったかー。
物語も最終章に至り、たけし(大友)は済州島に身を
隠しており、中盤まで活躍の場は与えられない。明ら
かに『仁義なき戦い』を意識しながら紡がれたこのシ
リーズは、最終章においても『仁義なき戦い 完結篇』
の枠組を拝借しているといっていいだろう。

前回は加瀬亮がやっていた役回りを、今回は大杉漣が
つとめる。いきがっている大杉漣に、西田敏行と塩見
三省という"モノホン"がお灸を据える話である。この
ふたりの老獪な感じがたまらない。たけしはやはり、
滑舌がけっこう危なっかしく、しゃべり出すとハラハ
ラする。

いずれにせよ、このシリーズにはたいへん楽しませて
もらった。3作も撮ったということは、もう当分ヤク
ザ映画は撮らないのかもしれないが、またいつか撮っ
てほしいものである。

                                      10.14(土) 新宿ピカデリー


2017年11月15日水曜日

読書⑩


『卵を産めない郭公』
ジョン・ニコルズ 著  村上春樹 訳  新潮文庫

『結婚式のメンバー』もヘンな話ではあったが、この
小説もかなりヘンだ。この2作には、春樹のアメリカ文
学の好みがよく表れているような気がする。2つの小説
に共通するのは、ちょっと変わった女の子が出て来て、
とにかく饒舌である事ない事しゃべりまくるという点だ。
若干『フラニー』に似た雰囲気も感じる。
カレッジを舞台にした一風変わった青春小説。









『愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論
鈴木涼美 著   幻冬舎

半分ぐらいはネットで公開されているのを読んでいたが、
お母さんをめぐる章が追記されているのでもちろん購入。
鈴木涼美のお母さんの、AV女優をやった娘への愛憎なか
ばした刺すような言葉がいつも楽しみなのである。

2017年11月13日月曜日

【LIVE!】 銀杏BOYZ


日本の銀杏好きの集まり

 1. エンジェルベイビー
 2. まだ見ぬ明日に
 3. 若者たち
 4. 駆け抜けて性春
 5. べろちゅー
 6. 骨
 7. 円光
 8. 二十九、三十(クリープハイプCover)
 9. 夢で逢えたら
10. ナイトライダー
11. トラッシュ
12. I DON'T WANNA DIE FOREVER
13. 恋は永遠
14. BABY BABY
15. 新訳 銀河鉄道の夜
16. 光
17. NO FUTURE NO CRY
18. 僕たちは世界を変えることができない

<Encore>
 1. 人間
 2. ぽあだむ
 3. もしも君が泣くならば

                                      10.13(金) 日本武道館

レキシのおふざけが過ぎるライブから、44時間後。
わたしは再び武道館にいた。
今度は、銀杏BOYZの初武道館を目撃するためである。

宗男おじさんが活躍するずっと前に買ったためか、ア
リーナで、しかも前から6列目という驚異的に良い席で
あった。武道館で20回以上はライブを観ているが、ま
ともにチケット買ってアリーナ席だったことなど一度
も無い。

1曲目は「エンジェルベイビー」。もう最後の曲かと
いうぐらいのフルスロットル、よだれを垂らしてマイ
クを咥えこんだりしながら歌う。狂気のパフォーマン
スを見せたかと思えば、朴訥としたMCで笑わせる。

代表曲はいつもなぜか1節まずアコギで弾き語って、
観客にも歌わせてからあらためてバンドで演奏してい
たが、もう最初の合唱ですでに武道館の一体感にグッ
とくる。みんな峯田さんのことが好きなんだなー。
あんなに絶叫しながら、3時間を超えるライブで最後
まで野太い声が健在だったのはさすが。もう山田将司
には無理な芸当だなぁ…。

ベストアクトは、普通だけど「BABY BABY」。
ちょっと別格な曲なのかな。特別な場所で鳴らされる
特別な曲という感じがした。

2017年11月10日金曜日

【LIVE!】 レキシ


レキシツアー2017
不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち ~キャッツの日~

 1. KATOKU
 2. 年貢 for you
 3. KMTR645~タッチ~
 4. 妹子の馬 LOVEメドレー (妹子なぅ LOVE弁慶 やぶさめの馬)
 5. SHIKIBU

 6. Takeda' with ニセレキシ
 7. 古墳へGO! with ニセレキシ

 8. 最後の将軍
 9. 古今 to 新古今
10. 墾田永年私財法
11. 憲法セブンティーン
12. 刀狩りは突然に
13. きらきら武士

<Encore>
 1. 狩りから稲作へ

                                            10.11(水) 日本武道館

いつもながら楽しいライブで。
武道館2DAYSの2日目に参戦。笑い疲れた。 
ふざけ散らしていながら音楽的にも高度なことをやっ
ているのだから、1粒で2度おいしい感じ。そりゃあ
客も来るし、稲穂も売れるわ。

ゲストはU-zhaan(ニセレキシ)。
もちろん「Takeda'」を披露。盛り上がる。

ベストアクトは「墾田永年私財法」。この曲すきだ
わー。743年ってことはもう忘れない。
今回は特に、元気出せ遣唐使をいじり倒すところは
会場もずっと爆笑。すごかった。

2017年11月9日木曜日

湯を沸かすほどの熱い愛


☆☆☆★★     中野量太     2016年

銭湯を経営する肝っ玉かあちゃんが癌により余命宣告
されて…と聞くともうさんざん量産されているその類
型の映画・ドラマに食傷ぎみの身としては観る気を失
うのだが、なるほど今作は「余命もの」の王道の展開
をたどりながらも、どうしようもない悲壮感に陥るこ
とをたくみに避けている。それは脚本と演出を手がけ
た監督の力量だといっていいだろうと思う。

しかしラストがちょっと…なんかなぁ。別に不謹慎と
か言うつもりはないけど、それってどうなの、と思っ
てしまう。

                                                10.9(月) Blu-ray


2017年11月6日月曜日

読書⑨


『映画評論・入門!』
モルモット吉田 著   洋泉社

「映画評論」というものが今よりずっと影響力を
持っていた時代のおもしろいエピソードが満載。
"国辱映画"と呼ばれた若松孝二の『壁の中の秘事』、
市川崑を擁護するため立ち上がった高峰秀子、幻
の映画評論家・増田貴光、ロマンポルノの評価の
変遷…。なにより『あの夏、いちばん静かな海。』
が、『稲村ジェーン』を観たたけしが「俺ならこ
う撮るね」ということで出来た映画だというのは
驚きだ。やはりたけしは"反射神経"のひとであり、
"批評"のひとなんだとあらためて思う。









『アイスクリームが溶けてしまう前に』
小沢健二と日米恐怖学会    福音館

どういう経緯でできた絵本かは知らないが、とりあえず
「小沢健二」と名の付くものは買ってみるのである。
ハロウィーンをめぐる「おはなし」。にしても、「日米
恐怖学会」ってなんだ。






2017年11月4日土曜日

散歩する侵略者


☆☆☆★★★    黒沢清    2017年

いやぁ最高。おもしろいわー。
宇宙から偵察に「散歩する侵略者」がやってくる。まず
は3人。地球人の身体を乗っ取り、人間のことを学習する
ために色んなひとから概念を奪って理解する。奪われた
者はその概念を失ってしまう。「家族」「仕事」「敵」
などなど。長澤まさみの妹の前田敦子は「家族」の概念
だけを奪われて、見た目には何も変わらないのに急によ
そよそしくなる。
長澤まさみは、離婚しようとしていた夫の松田龍平が侵
略者に乗っ取られて、まともに歩くこともままならず、
ヘンなことばかり言い出すのでそのまま見捨てるわけに
もいかない。しょうがないから仕事をしながらそのまま
面倒をみるのだが、家から出るなと何度言っても松田龍
平はふらふら散歩するのである。このへんのやりとりは
笑える。散歩する侵略者だからね。

                                              10.9(月) 新宿ピカデリー


2017年10月21日土曜日

ナラタージュ


☆☆☆★★     行定勲    2017年

内容はもちろんしょーもない話なのだが、鑑賞の作法として
はもうホラー映画と同じでいいと思う。つまり技術や演出で
観客の心理をいかに動かすかという行定さんの方法論をカッ
トの積み重ねからいかに読み取るかに目を転じると、けっこ
うおもしろかった。

現在の架純ちゃんが前枠、後枠のような感じで始めと終わり
にあり、本編はすべて大学時代の回想。その回想の中に高校
時代の回想が入る。
シャワーのお湯をかけあうラブシーンには思わず笑いそうに
なる。マツジュン、架純ちゃんの服にお湯をかけるんだ! と
念じたけど、行定さんはもちろんそんな演出はしなかった。

それにしても、「許されぬ恋」と宣伝文句には踊るが、許さ
れないことをしてるのはマツジュンだけで、架純ちゃんは別
に悪くないような。教え子の高校卒業の日に教師であるマツ
ジュンがとった行動こそがすべての元凶のような気がしてな
らないのである。そして酔っ払って運転できないだかなんだ
か知らないがいちいち電話してくんじゃねーよ! 代行呼べ。

                                                10.8(日) 新宿ピカデリー


2017年10月20日金曜日

台北ストーリー


☆☆☆    エドワード・ヤン   1985年

こちらはホウ・シャオシェンの系譜を汲む
ような台湾映画の王道の感じだが、そのぶ
んちょっとのんびりしていて、少しウトウ
トてしまいました! まことにすまない。
しかし開き直るわけではないが、これまで
台湾映画を続けて2本観て、寝なかったこ
とは一度もない!

                                     10.7(土) 早稲田松竹


2017年10月18日水曜日

恐怖分子


☆☆☆★★    エドワード・ヤン    1986年

エドワード・ヤンの2本立てを早稲田松竹で。
まずは名作と名高い『恐怖分子』。橋本愛が思い入れのある
3本に挙げていた。ちなみにあと2本は『人が人を愛すること
のどうしようもなさ』と『ゴダールの映画史』。

「恐怖分子」は「テロリスト」のことと思っとけばいいらし
い。のんびりスローテンポな台湾映画とサスペンスがどう融
合するのか注目して観たが、余計な説明を排除してハードボ
イルドなタッチに徹すると思いきや、主役の男の子のおぼこ
い顔に和まされる。でも顔はおぼこいが金持ちの息子で、写
真道楽のために小遣いを持って家を出ているが、やってるこ
とは空き家を借りて暗室にしたり、警察の摘発から逃れる途
中の女の子を隠し撮りした写真を拡大印刷して壁に貼ってい
るというなかなかの変態ぶりである。いくつかのスジが電話
を介してつながってラストに向かうが、あまり説明が無いた
め何が起きているかを理解するのに必死である。
一風変わった台湾映画だった。

                                                      10.7(土) 早稲田松竹


2017年10月16日月曜日

パターソン


☆☆☆★    ジム・ジャームッシュ   2017年

バスの運転手をしながら詩をメモ帳に書き溜めている
パターソン生まれのパターソンさんが映画の主人公。
月曜日、彼が目覚める場面から始まって、その規則正
しい生活を淡々と描写していく。けっこう淡々として
いる。途中からブルドッグのマーヴィンだけが、私を
笑わせてくれる存在として待望されていた(私に)。

しかしマーヴィンの愛らしさもむなしく、アルコール
を摂取していたこともあって、けっこう大事な場面で
わたくし寝てしまいました。ほんとは評価する資格な
いです。猛省しております。

                                         10.6(金) 新宿武蔵野館


2017年10月15日日曜日

【LIVE!】 松元ヒロ


ひとり立ち

こういうの、"スタンダップコメディ"というので
合ってるかな? 最初から最後まで独りで喋る。
政治ネタ、アメリカ旅行(半分仕事だが)の話、
一人芝居、各種とりそろえられていて、飽きさせ
ない。2時間があっという間だった。
なによりヒロさんがバカにする対象を普段わたし
もバカにしてるので、そりゃ気分はいい。

                                      10.1(日) 紀伊國屋ホール


2017年10月14日土曜日

ダーティーハリー3


☆☆☆★★   ジェームズ・ファーゴ   1976年

シリーズ3作目。
今回は、殺人課に異動したての女刑事と無理やり組まされた
らハリーがどうなるかがテーマ。ガッツはあるのだが、いか
んせん現場経験ゼロなのに、いきなり解剖だぁカーチェイス
だぁ銃撃戦だぁ、というハリーのいつものメニューに衝撃を
受ける女刑事。しかし前の部署(記録係)の強みを活かして
役に立ち、その存在をハリーも次第に認めていくという展開
はたしかにお決まりだけども、だからどうしたっていうんだ。

小林信彦がダーティーハリーは1を除くと3がおもしろいと
言っていたと記憶しているが、なるほどたしかに。結末は悲
しいものだが、後味は不思議とわるくない。

                                                   10.4(水) BSプレミアム






<ツイート>
来週月曜からBSで市川崑の金田一を3本放送。
このブログを読んでくれているひとで『犬神家の一族』を
まだ観ていないひとはまさか居ないと思うが、もし観てい
ないならいいから観て下さい。

2017年10月12日木曜日

ロスト・イン・トランスレーション


☆☆☆★★    ソフィア・コッポラ   2004年

不思議に余韻の残る映画だ。
アメリカからCM撮影のために来日した俳優(ビル・マーレイ)
と、写真家の夫にくっついて来日し、毎日暇を持て余している
女の子(スカーレット・ヨハ ンソン)が、ふとしたことから
打ち解け、心を通わせるようになるが…。

新宿の高級ホテルで撮影されたという、外の雑踏とはまるで別
世界のような重厚な空間。それと歌舞伎町の猥雑な風景の対比
がとてもおもしろい、と外国人は思うんだろーけどよ、こちと
ら新宿の近所に住んでる俺には別にどうってことないね、と、
観ている間は思っていたのだが、何日か経つと不思議と映画の
中の風景が自分の中にしっかり根をおろして息づいているのが
分かる。ビル・マーレイの醒めた目で見渡した東京は寒色系の
トーンでまとめられてよそよそしいが、同時に奇異で滑稽で活
気がある。ラストの空撮が効果的である。

                                                    10.3(火) BSプレミアム


2017年10月10日火曜日

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール


☆☆☆★★     大根仁     2017年

前にタイトルに惹かれてマンガをザッと立ち読みした
ことがあり、その時わたしのようなアイディアの湧か
ない人間でも「映画になりそう」と思ったので、 映画
化は必然か。そしてこの底意地の悪い話を映画化する
にあたって、大根仁以上の適任はいるまい。

どんな役をやっても私の好感度を上げてくる妻夫木く
んは、今回の「奥田民生に憧れる青年」の役でも好演
していた。そしてこの映画は「狂わせガー ル」に狂わ
されるためにあるのだから、いちばんの肝となるのは
水原希子である。気まぐれと計算高さを使い分け、
「出会う男すべて」を振りまわして悪びれない、小悪
魔などという使い古された言葉では物足りないほどの
モンスターガールを楽しげに演じていた。
セックス描写はNGでもキスならいいんだろっ!?とい
うことで、水原希子にものすごい回数チューさせてい
たのはもちろん大根仁の職権濫用であろう。妻夫木く
んと、新井浩文と、果ては松尾スズキの耳を舐め回す
シーンまであって、監督の欲望が剝き出しなのも好感
がもてる。

そして…自分がいちばん分かってるだろうから言わな
いが、いやでもやっぱり言うが、「ハロー張りネズミ」
はなぜあんなにイマイチだったのか! やはり地上波
の制約ですか…。

                                        10.3(火) 新宿ピカデリー


2017年10月8日日曜日

草原の輝き


☆☆☆     エリア・カザン    1961年

ワーズワースの詩を引用することで、どことなく
文藝映画の趣きだが、内容はいえば高校生カップ
ルの破局と、それによって精神のバランスを崩し
てしまった女の子(ナタリー・ウッド)、その再
生の物語であって、格別おもしろいわけではない。
青春映画なのかもしれないが、私の好きなそれで
はない。

しかしナタリー・ウッドはのちに撮影中の事故で
死んでるのか…。なんともいえない。なむなむ。

                                      9.25(月) BSプレミアム


2017年10月4日水曜日

読書⑧


『ハワイイ紀行 【完全版】

池澤夏樹 著   新潮文庫

旅行のお供に持って行った。フライトは片道7時間強ある。
行き帰りで半分ちょっと読み、帰国してから残りを読んだ。
端的にいって素晴らしい本である。深くて、おもしろくて、
ためになる。

当方恥ずかしながらハワイイについては何も知らず、ビー
チとリゾートホテルと火山ぐらいしかイメージを持ち合わ
せていなかった。しかし、おもに帰りの飛行機でこの本が
どんどんおもしろくなっていって眠るどころではなくなり、
今はもう一度ハワイイに行きたい気持ちでいっぱいである。

フラ、レイ、音楽、植生、地形、ハワイイ語、神話、キャ
プテン・クック、歴史、サーフィン、……さまざまな観点
からハワイイを知るために格闘した池澤夏樹の3年間の記
録が結実したのがこの本ということだ。氏はこういう仕事
に向いているとみえて、とても有能である。



2017年9月30日土曜日

三度目の殺人


☆☆☆★★      是枝裕和    2017年

観終えて、複雑な気分である。
レベルは高い。吟味されたセリフ、ストーリーテリング、
キャラクターの造型はもちろん、見せる所・見せない所、
語る所・語らない所のバランスなど、ほんとうに見事。
でもこういう映画を「好きじゃない」と感じるひともい
るだろうなぁとも思う。『そして父になる』のとき私は
「意味のないカットがひとつも無いというのは、それは
それで観ていて疲れるものなのだ。」
と書いた。今回は同じ傾向がより悪くなって顕在化して
いるように思った。意味ありげな、思わせぶりなカット
が多くて、その裏に監督の「まあこのこと覚えといてく
ださいよ」とか「ほら、ここで伏線は回収したでしょ」
が見えてしまうのだ。ただとても微妙なラインで、ひと
によってはそれが映画的な快感にもなり得るのだが、な
まじ是枝さんがクレバーで理知的なひとである事を知っ
てしまっているがゆえに、それがうまく快感にならない
のである。ぜいたくな悩みかもしれないが…。

MVPは役所広司。『CURE』の萩原聖人を彷彿させる、
ガラス越しの接見だけで観るものに恐怖を与える不気味
きわまりない演技だった。そして制服をきちんと着た広
瀬すずの可愛さ…。

                                            9.24(日) 新宿ピカデリー


2017年9月28日木曜日

ダンケルク


☆☆☆★★   クリストファー・ノーラン   2017年

第二次大戦中、ナチス・ドイツ軍に包囲されたダンケルクの
街に孤立した連合国軍。歴史に残る撤退戦を"あの"クリスト
ファー・ノーランが描く。どんな映画になるか、わくわくし
ますね。つい初日に観に行ってしまいました。

ワンカットに注いだ情熱(と金銭)に圧倒される。これって、
沈没する船にGoPro何台か仕掛けて、使ってるのはこの2カッ
トだけか…みたいな。同時に、主役はこっちだと言わんばか
りの、すさまじい音量で襲い掛かる音響に度肝を抜かれる。
鑑賞にはストレスに耐える体力を要するので、これから観る
ひとはご用心。

演出にはいろいろと不満があるものの、ここにつらつらと書
き連ねるのは控えよう。美女どころか、ひとりの女のひとも
出て来ないが(いや1人だけおばちゃんが一瞬出て来た)、
それはまあここで言う不満ではない。なにはともあれ、劇場
は戦場と化す。映画館に赴いて轟音の銃弾を浴びるべし!

                                                9.9(土) TOHOシネマズ新宿


2017年9月25日月曜日

打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?


☆☆☆★      武内宣之     2017年

『花とアリス殺人事件』の時にも思ったことだが、たとえ
アニメであっても岩井俊二の特有のストーリー展開の仕方
というのは確かに感じられて、それがけっこう気持ちいい。
脇道にそれながら進んでいくといったらいいのか、意外な
展開をすると見せて、気付くといつの間にか本道に戻って
おり、また次にストーリーが動く時は脇道を転がって行く、
というような感じ。

今回は原作のテレビドラマに、花火の描写をはじめアニメ
でしかできない表現が付加されて、ストーリーも独自の展
開をしていく。「もしもあの時、違う選択をしていたら」
というのが、1回きりでなく何度も繰り返されるのが大き
な特徴で、それによりタイムリープの要素が強まる。しか
し当然、その副作用で「時をかける少女」に似てくる。

菅田くんはあまりうまいとは思わず。広瀬すずは個性のあ
る声でどうかなと思ったが、意外に邪魔にならない芝居で、
うまくなじんでいた。

                                            9.6(水) TOHOシネマズ新宿


2017年9月7日木曜日

【LIVE!】 サニーデイ・サービス


サマーライブ 2017

 1. 今日を生きよう
 2. 素敵じゃないか
 3. あじさい
 4. 八月の息子
 5. 江ノ島
 6. スロウライダー
 7. 経験
 8. さよなら!街の恋人たち
 9. 恋におちたら
10. 苺畑でつかまえて
11. 96粒の涙
12. 海へ出た夏の旅(〜再び)
13. セツナ
14. 白い恋人
15. シルバー・スター
16. 花火
17. 時計をとめて夜待てば
18. 24時のブルース
19. 週末
20. サマー・ソルジャー
21. 海岸行き

<encore>
 1. 忘れてしまおう
 2. 夜のメロディ
 3. 青春狂走曲

<encore 2>
 1. 胸いっぱい
 2. One Day

                                    8.27(日) 日比谷野外音楽堂

野音でライブを観るのもずいぶん久しぶりだ。
「サニーデイは野音に合うだろうなぁ」とは思ったが、
ほんとによく合った。天気もほどよく、緑をゆらす風が
心地いい。サニーデイとしては19年ぶりの野音とのこと。

MCは一切なしで、次から次へと新旧とり混ぜたセットを
プレイし続け、気づけば21曲。あっという間の本編が終了。
時に優しく、時に甘酸っぱく、時に狂気にほとばしらせる、
バンドの歴史をも感じさせる圧巻のライブだった。

チケットは普通にぴあで取ったが、なんと前から2列目と
いう超良席だった。ただ失礼ながら曽我部恵一はじめメン
バーはどこから見ても「もっと近くで見たい」という風貌
ではない。この運、別な時に使いたかった…。

ベストアクトは「96粒の涙」にしようかな。この曲好きな
んです。



2017年9月3日日曜日

トム・アット・ザ・ファーム


☆☆☆★★    グザヴィエ・ドラン   2014年

映画は主人公の若者(トム)が、友人の葬儀に参列するため、
友人の生家を訪れる場面から始まる。家人は不在。だが偶然、
鍵を発見してしまったトムは家に上がり、ダイニングで友人
の母親を待つことにする。しかし長時間の運転の疲れか、い
つしか眠り込んでしまう…。

友人の家は農場を持ち、酪農を営んでいるようだ。
死んだ友人、その奇妙な兄、息子の唐突な死に疑問を持って
いる母親。友人が不在のまま、友人の一家にからめとられ、
身動きがどれなくなっていくトムの様がなかなか恐ろしい。
しかし奇妙な兄の行動原理が不明というかなんだか人物像が
定まっていないような感じがしてしまう。そこが狙いなのか
もしれないが。

観終わって初めて知ったのは、トムを演じていたのがグザ
ヴィエ・ドランだったということ。これには驚いた。『息
もできない』で、ヤン・イクチュン自身があの頭の悪そう
なチンピラ役だったことにも驚愕したけど、グザヴィエ・
ドランもこう言ってはなんだが、風貌からはただのナイー
ブな若者に見えた。


                                                       8.19(土) キネカ大森


2017年8月23日水曜日

たかが世界の終わり


☆☆☆     グザヴィエ・ドラン    2017年

ひさびさに名画座。
目黒シネマの『3月のライオン』前後篇とけっこう迷った
のだが、カナダの新鋭グザヴィエ・ドランの2本立てに落
ち着いた。しかしカンヌのグランプリということでちょっ
と身構える。

最初は主人公のいくぶん感傷的なモノローグで始まる。
12年ぶりに故郷に帰って、家族に「あること」を告げなく
てはならない、という内容で、どうやら死期が迫っている
ようだ。
家族は主人公を温かく迎えようと懸命になるが、劇作家と
してある程度の成功を収めているらしい主人公と、田舎暮
らしに満足しながらも忸怩たる思いも感じているらしい家
族との間でどうしても齟齬が生じていく…。

ほとんどワンシチュエーションで、たいへん予算のかから
ない映画だなというのが第一印象。誰も悪意を持っている
わけではないのに感情がもつれあい、悪化していくという
芝居はよく切り取られている。孤立する主人公ともっとも
通じ合っているのが兄の奥さん(マリオン・コティヤール)
という"他人"というのは象徴的である。どことなく『東京
物語』を想起させる。

                                                  8.19(土) キネカ大森


2017年8月12日土曜日

誘う女


☆☆☆★    ガス・ヴァン・サント   1996年

ニコール・キッドマン大好きな小林信彦が、コラムでニコー
ル・キッドマンの話になるたびに何度も言及するので、ずっ
と観たかった。原題は"To Die For"で、どう訳せばいいのか、
「君のためなら死ねる」みたいなことか。…いま検索してみ
たら、「死んでもいいくらい」「死ぬほど」という表現で、
わりとよく使うみたいです。若者ことばなのかもしれない。

映画を観終わって私は『ゴーン・ガール』を思い出した。つ
まりこちらも殺人が絡む悪女モノというか、わりにグロテス
クな話である。ニコール・キッドマンは美貌を武器にジャー
ナリストとしての名声を得ようと枕営業も辞さないお天気お
ねえさんを演じていて、こんな頭の弱そうなチャンネーの演
技もできるんだ、という驚きがある。枕営業ぐらいで終わっ
ていれば映画にはならないが、学生たちを手玉にとって操り
だしてから、だんだん話は大ごとになっていく。

これも実際の事件がモチーフになっているらしく、最近はそ
ういう映画ばかりで閉口だが、ガス・ヴァン・サントは昔か
らこの手法が得意みたいですな。

                                                   8.6(日) BSプレミアム


2017年8月6日日曜日

獣道


☆☆☆★      内田英治     2017年

伊藤沙莉の主演映画!
ということで、知らない監督だがお祝いがてら観に行く。
親のネグレクト、新興宗教団体のサティアンの中で育った
少女、不良とつるみ、ヤクザに殺されかけ、しぶとく生き
延びるがやがて身体を売り始め、母親の元へ帰るが母親は
また別の宗教に夢中で…。最後はAV女優にまで至るその
転落人生を一定の距離を持ちながら常に見守っているのが、
すっかり青年になった須賀健太。いまやもうAV女優は転落
ではない、という言い方もあるが。

なんとくわかると思うけど、園子温っぽい感じもある。
私はオープニングのシーンが時系列的にどこに入るのかが
分からなくて、ずっともやもやしていた。伊藤沙莉は当然
うまかった。ヌードありラップあり。

                                             7.30(日) シネマート新宿









<ツイート>
最上もが、でんぱ組を脱退…。がーん。
紫色のサイリウムを振りながらライブを観るのが今年の
目標だったのに。それに向けて学習にも余念がなかった
のだが…。



2017年7月20日木曜日

美しい星


☆☆☆★★     吉田大八    2017年

今年の注目作! と思って楽しみにしていたのに、
都内のTOHOシネマズははやばやと上映をやめて
しまい、なぜかあっという間に観られなくなって
なった。そんなにやる気がないんならやめちまえ!
と怒鳴りたくもなる。TOHOシネマズにはもう何
も期待しないことにする。それとも、もしかして
世紀の大駄作なのだろうか…と観る前から不安ば
かりが募る。

結局、アップリンクで鑑賞。
全然わるくない。というか、おもしろい。
個人的には金沢の海で橋本愛と金星人のストリー
トミュージシャンがUFOを呼ぶところが最大のク
ライマックスで、あとは下降線をたどった感はあ
あるものの、これはよくできてる。そして橋本愛
はめっちゃキレイやん。リリーさんの決めポーズ
には場内からもこらえきれない笑いがもれる。

こういう「一見、意味がなさそうで、実はありそ
うで、ほんとにない」映画が大好きである。三島
の原作にはいったいどこまで忠実だったのだろう。

                                     7.7(金) アップリンク