2016年10月28日金曜日

ハドソン川の奇跡


☆☆☆★★   クリント・イーストウッド   2016年

原題は"Sully"とあって、いったい何のことかと思ったら、当の
機長の愛称だった。

イーストウッドの新作はまさに大人の作劇。全篇にわたって大
人の抑制が効いている。
派手なシーンといえるのは、墜落しそうになる緊迫の機内だけ
である。これを序盤に見せるのか、中盤はたまた終盤までとっ
ておくのか。序盤に見せてしまうと、あとは会話劇のみになり、
かったるいと言われそうである。かといって終盤まで見せない
と、引っぱりすぎの誹りを免れまい。これをイーストウッドはどう
解決したか。見事である。
"誇り"という言葉が胸に残る。小品ながら秀作。

                                         10.13(木) 109シネマズ二子玉川


2016年10月25日火曜日

奇跡


☆☆☆★★     是枝裕和     2011年

予習の意味もあって、子どもが主役の映画を観返した。
「なぜ新幹線がすれ違う場所が特定できるのか」という
致命傷はあるし、ちょっとタルい瞬間もあるが、やはり
全体的にはおもしろい。何回も笑ってしまった。まず兄
弟のキャラクターの違いが良い味だしているのである。

長澤まさみは図書室の先生で、色気は抑制ぎみだが、
どうしてもにじみ出るものが小学生をも感応させる。

「裸足だね…」「違うよ、"生足"っていうんだよ」

その後の保健室の先生も捨てがたい、みたいな会話に
も思わず吹き出す。

この映画、橋本環奈が出ていたことでも知られる。画像
を参照。

                                               10.5(水) BSプレミアム


2016年10月22日土曜日

いつ以来だろう読書


『漢字と日本語』
高島俊男 著     講談社現代新書

ご健在でいらして嬉しいかぎり。

実はずいぶん前に読了していたが、「もう1冊」をなかなか
読まなかったため、こんなに遅くなってしまった。おかげで
内容はほとんど忘れてしまった。えーと、なんだったっけ。

まあとにかく、私はこういうコラムをこそ、最上級のコラム
と考えるものである。私が好きなコラムの書き手は、
①高島俊男、②小林信彦、③川上未映子
そこに、みうらじゅんと鈴木涼美と糸井重里がからむ、と
いう構図である。









『夜を乗り越える』
又吉直樹 著  小学館よしもと新書

タイトルに惹きつけられて、読まされてしまった。
又吉の語る読書論で、「夜を乗り越える」。いったいどういう
ことなんだろう。あるいは「読書」そのもののことか。

又吉の本の読み方と、私の読み方とはずいぶん違うようだ。

 当時僕が本に求めていたのは、自身の葛藤や、内面のどう
 しようもない感情をどう消化していくかということでした。近代
 文学は、こんなことを思っているのは俺だけだという気持ち
 を次々と砕いていってくれました。その時、僕が抱えていた
 悩みや疑問に対して過去にも同じように誰かがぶつかって
 いて、その小説の中で誰かが回答を出していたり、答えに辿
 りつかなくとも、その悩みがどのように変化していくのかを小
 説の中で体験することができました。


私は自分をとりまく環境に疑問を抱いたり、内面と葛藤したり
ということがほとんど無い子どもだった。今でも無いのだが。
いくぶん「おめでたい」と言えなくもないと思う。「深みがない」
とも言える。だから上記の引用のような本の読み方をしたこと
は一度も無い。

結局私は「読んでいて気持ちのいい文章」や「心に引っ掛か
る文章」を追い求めて本を読んでいただけだったと思う。それ
は今でもあんまり変わっていない。
高校時代は村上春樹に宿命的に惹きつけられて、読み耽っ
ているうちに過ぎて行った。大学では芥川賞受賞作を全部読
んだり、漱石やドストエフスキーや大江健三郎を読んでいる
うちにこれまた過ぎて行った。

私も又吉と同じく太宰治は好きだが、どちらかというと、その
文章の"技巧"に心ひかれるものがある。もちろんそれだけ
じゃあないけどね。

しかし実に興味深い人物だ。又吉直樹。

2016年10月19日水曜日

【LIVE!】 山下達郎


新宿LOFT40周年記念
山下達郎 アコースティックライブ

達郎いわく「いつもの編成だとステージに乗らない」ため、
山下達郎、難波弘之、伊藤広規、3人のアコースティック
編成。


01. ターナーの汽罐車
02. PAPER DOLL
03. 夏への扉(提供曲)
04. 過ぎ去りし日々
05. 砂の女(鈴木茂Cover)
06. サンフランシスコ湾ブルース(高田渡Cover)
07. DRIP DROP
08. モーニング・シャイン

09. Cheer Up! The Summer(カラオケ)
10. 硝子の少年(カラオケ)
11. CHAPEL OF DREAMS
12. SO MUCH IN LOVE
13. WHAT’S GOIN’ ON(マーヴィン・ゲイCover)
14. 蒼氓
15. SINCE I FELL FOR YOU
16. さよなら夏の日
17. BOMBER
18. Ride On Time

<<ENCORE>>
01. Down Town
02. クリスマス・イブ
03. Love Space
04. Your eyes

                                            10.3(月) 新宿LOFT


(Cover)と書いた曲以外にももちろんカバーがある。
誰のカバーか私が知らないだけである。

あまりくじ運が良いほうではないが、なにせ数打ってるので
たまにはこういうこともある。2日間あわせて450人のキャパ
に、3万通の応募があったという。

「いつもみたいに長くはやりませんよ」と言っていたが、結果
的には休憩入れて3時間。立ちっぱなしはこないだまで二十
代だった私でもけっこうツラかったが、多くを占めた人生の
先輩方は大丈夫だっただろうか。

演奏はすばらしいのひとこと。夢のような時間だった。
そしてラジオ以上に軽妙で毒のあるMCもおもしろかった。

ベストアクトは"BOMBER"だろう。3人編成で、あの迫力の
ビート。シビれた。


2016年10月14日金曜日

ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK ‐ The Touring Years


☆☆☆      ロン・ハワード     2016年

演奏シーンはふんだんにあって楽しいが、それ以上のもの
ではない感じ。はたしてドキュメンタリーと呼んでいいレベル
なのか。
むしろレコーディングに凝り始めてからのビートルズを見た
くなった。

ビートルズがライブをやっていたのは、PAシステムの無い
時代なのだ。5万人が入るシェイ・スタジアムでやった時も、
ステージ上のアンプから出る音だけが基本。それでは足り
ないので、「ハウス・スピーカーを使った」という字幕が出た
ので何のことかと思ったが、要は「ファウルボールに、ご注
意ください」のあのスピーカーのことなのだ。あんなショボ
そうなスピーカーでいったいどれほどの音が出力できたの
だろう…。

                                        10.2(日) bunkamuraル・シネマ


2016年10月6日木曜日

怒り


☆☆☆★★★    李相日     2016年

実力ある俳優たちの渾身の演技を心ゆくまで堪能。
至福の時間である。あおいさんもこれでやっと代表作と呼べる
映画ができた。すずちゃんも良かった。
小説を読んでぼんやり頭に思い浮かべた絵が「これだよ、これ」
と膝を打つ映像として具現化される快感。映画としては『悪人』
以上の出来ばえだと思う。
透き通るような蒼い海を、少年と少女をのせて控えめに波を立
て進むボート。うだるような暑さのなか、無個性な家が建ち並ぶ
住宅街を歩く男を俯瞰で(鳥瞰で?)とらえたショット。傷ついた
娘を抱きしめて眠る母娘。こういうショットが映画のいいところだ
よなー、と嚙みしめながら観た。3つのストーリーが絡みあわず
に進行するが、どれも甲乙つけがたい。
ひとつだけ言えば、「疑ってるんじゃなくて、信じてるんだろ」と
いうセリフが出て来るのが早すぎた。でもそれならとシーンを増
やして二部作になるよりは、今のままでいい。

                                       9.25(日) TOHOシネマズ渋谷


2016年10月4日火曜日

【LIVE!】 銀杏BOYZ/サンボマスター


男どアホウ サンボマスター 2016

【銀杏BOYZ】

1. 生きたい
2. 若者たち
3. 大人全滅
4. 骨
5. 夢で逢えたら
6. I DON'T WANNA DIE FOREVER
7. べろちゅー
8. BABY BABY
9. ぽあだむ

1、2とまさに鬼気迫る歌唱だった。
よだれを垂らしながら58で頭をガンガン殴る峯田。その
たびに「ゴッ、ゴッ」という禍々しい音がPAスピーカーか
ら鳴る。そんな峯田の「若者たち」に思わず涙が出たの
でベストアクト。
中盤以降は急に爽やかになり、さっきまでよだれを垂ら
して絶叫してたひととは思えない。「骨」は好きなんだけ
ど、あまりに爽やかすぎた。「べろちゅー」も大好きな曲
なんだよなー。素晴らしかった。








【サンボマスター】

1. そのぬくもりに用がある
2. 光のロック
3. 世界を変えさせておくれよ
4. 愛してる 愛してほしい
5. NO FUTURE NO CRY
6. 美しき人間の日々
7. 可能性
8. できっこないを やらなくちゃ
9. 世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
10 .ミラクルをキミと起こしたいんです

<encore>
1. 夜汽車でやってきたアイツ feat.峯田和伸

                                      9.24(土) 新木場Studio Coast

予習しないで臨んでしまったが、楽しかった。
山口隆、しゃべるしゃべる。「そんなもんか? そんなもん
か?」と客を煽りつづけ、歌の合間にも早口で何事かイン
サートし、曲間のMCでも休むことなくマシンガントークを
繰り広げる。ほんとに圧倒された。なかなか良かったので、
今度は予習して行くことにしよう。