2015年4月24日金曜日

一枚のハガキ


☆☆☆★★        新藤兼人       2011年

新藤監督の遺作は、戦闘場面の一切ない戦争映画。いうな
れば「銃後」の映画である。
不条理で悲惨な話ではあるが、ひたすら悲惨、という描き方
ではなく、新藤流のユーモアも散りばめてあるし、構成もなか
なかおもしろい。監督99歳にして、意欲作だと思った。

天理教本部の掃除部隊に集められた中年の男たち100人の
うち、クジで選ばれた60人はフィリピンに送られ、選ばれな
かったうちの30人は潜水艦に乗る。残りの10人は、今度は宝
塚劇場の掃除にあたり、掃除が終わるとさらにクジで選ばれ
た4人が潜水艦に乗る。結果的に最初の100人中6人だけが、
戦地に赴くことなく生き延びた。なぜ生き延びたかというと、
単にクジ運がよかったというだけなのである。そうして豊川悦
司は生き残るわけだが、これは新藤監督の身に実際に起き
たことを元にしている。豊川はいわば監督の分身である。

「戦争とクジ」というのが一つのテーマになっていて、生き残っ
た豊川は、天理教本部で一緒だった男から託された「一枚の
ハガキ」を届けに、大竹しのぶの元へおもむく。ここでの大竹
の演技がすさまじい。

「右翼の軍国主義者」である首相にも、ぜひとも観てもらいたい
映画である。

                                                       4.19(日) BSプレミアム


2015年4月22日水曜日

祇園囃子


☆☆☆★       溝口健二      1953年

うーむ。ひどい話だよね、これ。
『舞妓はレディ』の世知辛いバージョンといってもいいかも
しれない。暢気に歌なんか歌ってられないよ、これじゃ。
そりゃあ若尾文子が舞妓の世界に幻滅するのも当然とい
う気がする。

若尾文子の可憐さには目をみはる。60年前……。
じゃあ若尾文子っていったい今いくつなのか。まあ考えな
いようにしようか。

                                                   4.18(土) BSプレミアム


2015年4月20日月曜日

おとうと


☆☆☆★★       山田洋次       2010年

市川崑の『おとうと』を、構造だけ借りて中身に違うものを注入
したのがこの映画である。もっとも、『おとうと』はもともと幸田文
の小説だが。

山田洋次の「おとうと」は、肺病やみの青年ではなく、親戚中か
ら厄介者あつかいされているフーテン(笑福亭鶴瓶)である。そ
れが吉永小百合の「おとうと」なのである。要は寅さんとさくらの
関係をひっくり返したともいえる。

それがどのようにしてあの「ピンクのリボン」に至るのか。
そこだけは原作と一緒であることは知っていたので、「うーむ。
なるほどなー」という感じ。

そんな姉弟の物語よりも、「出戻り」を演じるのはきっと初めて
だったに違いない蒼井優と、いつも通りの好青年役の加瀬亮の
恋には思わず心躍った。最近つくづく蒼井優のうまさに舌を巻く。

こないだ黒木華と蒼井優を「等価交換可能」と書いてしまいまし
たが、これを観るとやっぱ蒼井優が一歩リードかな。

                                                                 4.13(月) BS朝日


2015年4月18日土曜日

春の読書


『マウントドレイゴ卿/パーティの前に』
サマセット・モーム 著    木村政則 訳  光文社古典新訳文庫

「雨」という短篇が読みたくて買った。
モームの「雨」がけっこう重要なモチーフになっている小説もしく
は映画があったと思うんだけど、いくら考えても思い出せない。
なんだったかなー。誰か知りませんか。

「雨」は信仰をめぐるかなり衝撃的な短篇だった。
モームにはこういう南洋を舞台にした小説がいくつかあるようで、
思えば『月と六ペンス』の後半もそうだった。
そのほかの短篇もめちゃおもしろくてビックリ。モームはよく「通俗
作家」という言い方をされるが、もうこの言い方じたいにあまり意
味はないという気がする。モームが通俗的ならば、通俗作家じゃ
ないひとなんてほとんど居ないのでは。

とても良かったので、これからモームは読んでいこうと思う。









『ときめかない日記』
能町みね子 作     幻冬舎文庫

マンガです。
能町さんは「ヨルタモリ」に出ている金髪の女性で、ちょっと前から
週刊文春に連載も持っています。

こういう「微妙な心の機微」みたいなのを手っ取り早く描写するには
マンガは便利というか有効だと再認識した。けっこうおもしろかった。

2015年4月16日木曜日

アウトロー


☆☆☆       クリント・イーストウッド      1976年

けっこう退屈だったんだけどなー。
私の見ている映画サイトでは、見せ場の連続だし、傑作!みた
いな評が多くて、つい自信がなくなるが、少なくとも私はあまり
ワクワクしなかった。なんかダラダラしてなかった…?

イーストウッドの苦み走った表情と、しょっちゅう吐き捨てる嚙
みタバコが印象的である。

                                                       4.12(日) BSプレミアム


2015年4月14日火曜日

【LIVE!】 真心ブラザーズ


アップするのをすっかり忘れていた。
2月に行ったライブです。

「Do Sing Tour with MB's」

01. 胸を張れ
02. 空にまいあがれ
03. 朝が来た!
04. Is this love(ボブ・マーリーのカバー)
05. splash
06. あいだにダイア
07. 消えない絵
08. 君がそばにいるだけで
09. この愛ははじまってもいない
10. 花のランランパワー
11. きいてる奴らがバカだから
12. 高い空
13. おぼろげな春
14. あいつが夢所からやってくる
15. I'M SO GREAT!
16. ENDLESS SUMER NUDE
17. 拝啓、ジョン・レノン
18. Song of You

(Encore)
19 スピード
20. RELAX~OPEN~ENJOY

(Encore 2)
21.ふりかけ

              2.21(土) 中野サンプラザ


アルバム「Do Sing」のツアー。
YO-KINGはあいかわらず絶好調。声が良いよやっぱり。
最近ボブ・マーリーのベスト盤をよく聴いてるので、
"Is this love"のカバーには驚いた。
ベストアクトは「きいてる奴らがバカだから」。

もう数え切れないほど東京でライブに行ってますが、
実は中野サンプラザって初めてのような気がする。
家から自転車で行ってみた。近かった。


2015年4月12日日曜日

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)


☆☆☆★★★     アレハンドロ・G・イニャリトゥ    2015年

いったいどうやって撮ってるんだろうね。
ほぼ全篇がワンカットに見えたけれど、もちろんそんなわけはない。
バーに入っていく場面でカメラはドアに寄っていって画面がブラック
になる瞬間とか、「あ、ここか」と思うのが3、4箇所あったものの、ほ
とんど切れ目は分からなかった。ヒッチコックの『ロープ』みたいに
分かり易くない(笑)。なんだかミシェル・ゴンドリーのあの不思議な
PVを思い出した。路上でドラム叩いてるのも一緒だし。

企みに満ちた映画である。映画の内容というよりも、その「企み」そ
のものがおもしろい映画というか。監督、撮影、音楽の3人はいず
れもメキシコ人とのこと。言われてみれば、ヨーロッパ的な洗練とも、
アメリカ的な手慣れた手練手管とも違う、いうなればラテンアメリカ
作家の「マジック・リアリズム」の土着的な偏執を感じる、といったら
あまりに「後付け」すぎるかな。

これは間違いなく「体感する映画」である。レンタルDVDではダメで
す。音楽が素晴らしいので、ぜひ劇場のど真ん中の席で観て下さ
い。音響的にその方がいいかと。

                                                            4.10(金) 角川シネマ新宿


2015年4月10日金曜日

幕が上がる


☆☆☆★★       本広克行       2015年

演劇に青春のすべてをかける女子高生たち。
私はももクロに関しては、どのコがどの色かもよく分からない
レベルだが、このタイミングで彼女たちを青春映画のヒロイン
にするというのは、まことに正しいと思う。恋愛を持ち込まず、
ひたすら演劇にフォーカスしているのも、潔くて良い。

主役はももクロの5人だが、重要度としてはほぼ主役と同等
であり、しかも演技の上でこの映画を支配しているのは、誰
が見ても黒木華である。元は「学生演劇の女王」と呼ばれた
役者だったが、演技の道を諦め、新任の美術教師として赴
任してきたという役柄を、実に見事に体現してみせた。素晴
らしい。私は感動に近いものをおぼえた。存在としてはもう
蒼井優とほぼ一緒である。
よく「村上春樹がもう一人いればなぁ。もっと新作が読めるの
に」というような言い方を聞くが、蒼井優は実際に二人いると
いうことと等価である。これは便利。
かつて舞台「南へ」で、蒼井優の「影」の役に黒木華をキャス
ティングしていた野田秀樹の慧眼はおそろしい。

私は青春映画には点が甘いという傾向があるのは自覚して
いるが、でもやっぱ観ていても気持ちがいいし、だいたい映
画はすべてある意味で青春映画であるべきだ、とも言えませ
んか。

                                                      4.9(木) 新宿バルト9


2015年4月9日木曜日

アイズ ワイド シャット


☆☆☆★★      スタンリー・キューブリック     1999年

こういう話だったとはね。
公開時、わたしは13歳の映画好きでも何でもないただの少年だった
のだが、この映画が話題だったのは覚えている。ニコール・キッドマン
とトム・クルーズによる「濃厚な」ベッドシーンばかりがフォーカスされ
ており、というよりそれしかフォーカスされていなかったので、今日に
至るまでなんとなく、ほぼベッドシーンのみで160分の映画なのかと
思っていた。全然違うじゃねーか!(当たり前か)

夜を彷徨して次々とイベントに出会うトム・クルーズはどことなくRPG
のキャラクターのようでもあり、セックスが成就しそうでいつも未遂に
終わる「寸止め感」は徐々に、いずれ決定的な破滅が訪れるのでは
ないかという予感に変わってゆく。私は観ながら『ローズマリーの赤
ちゃん』を想起した。
しかしキューブリックが大真面目で撮ったからよかったようなもんで、
これたとえばクリストファー・ノーランが撮ったらどうよ。デヴィッド・フィ
ンチャーが撮ったらどうよ。ちょっと噴飯ものになる気がしませんか。

題名は、「眼をおおきく閉じて」ぐらいの意味なのか?
これが遺作となったキューブリック。奇しくも最後の映画の最後のセ
リフが"Fuck."になるとは、思わなかったろう。それはそれでカッコい
いけど。

                                                                    4.4(土) 新文芸坐


2015年4月7日火曜日

フルメタル・ジャケット


☆☆☆★★★    スタンリー・キューブリック    1988年

キューブリックの2本立て。
文芸坐はほぼ満員の盛況である。そうなるのは予想できたので、
30分前に到着したのだが、もうけっこう並んでいた。

なんだか、とんでもない映画だった。
映画は前半と後半に分かれており、前半で描かれるのは海兵隊
の訓練の様子。『アメリカン・スナイパー』でもSEALSの徹底的な
シゴキをやっていたが、あれをもっとドギツく執拗に、観ているほう
がギリギリと胃を絞られるような感じに仕上げた感じといえば分か
り易いだろうか。鬼軍曹ハートマンのキャラがすさまじい。新兵たち
に圧倒的なまでの罵詈雑言を浴びせかけ、精神的に参らせる。

後半はベトナムの戦場に舞台を移す。たしかに前半ほどの特異な
輝きはないが、それでも音楽の使い方が素晴らしく、じゅうぶん満
足だった。サントラが欲しい。

                                                                  4.4(土) 新文芸坐


2015年4月5日日曜日

童年往事/時の流れ


☆☆☆         候孝賢        1988年

監督の自伝的要素のある作品とのこと。
少年時代からの、さほど派手とはいえないエピソードをつな
げていく淡々と穏やかな映画の「時の流れ」に、つい意識を
失ってしまいました。おかげで登場人物の関係もいまいち
分からないまま、映画が終わってしまい…。申し訳ないこと
をしました。よってこの点数は参考値です。

                                                 3.21(土) 早稲田松竹







<ツイート>
関係ないんだけど、村上さんのメールを毎日読んでるうちに、
だんだんと『ノルウェイの森』を読み返したい思いが高まって
きている。ニュースで火事の映像を見れば、小林書店の二階
で緑と火事を見物するシーンを思い出すし、水仙を見ると緑
に会いに行ったときに「道端で摘んできた」と冗談を言うワタ
ナベくんを思い出す。旭川と聞くとレイコさんが元気にしてる
かが気にかかるし、きゅうりを見ると、緑のお父さんに海苔で
巻いたきゅうりを食べさせるシーンを思い出すし、ビリヤード
を見るとキズキを思い出す始末。かくも世界は『ノルウェイの
森』的事物で満ちている! だから近々きっとまた読むと思い
ます。

2015年4月2日木曜日

恋恋風塵


☆☆☆★★        候孝賢       1989年

久しぶりに早稲田松竹。
なぜかホウ・シャオシェンの二本立て。なぜ今ホウ・シャオ
シェン特集なのかは分からないが、でも現にこうして「そそ
られて」観に行ったわけだから、早稲田松竹は良い。

台湾南部の田舎から台北に出てはたらき始めた幼馴染み
のふたり。いろいろな困難やトラブルに見舞われながらも、
まわりの友情にも助けられ、自然にふたりは付き合い始め
る。やがて将来を約束し合って男は兵役へ赴くのだが…。

まあ台湾が舞台というのが目新しいだけで、どこにでも転
がっているような話なのだが、なんだろうこの映画に満ちて
いる爽やかな、甘やかな、苦みとでもいえばいいのか。男
の子がカッコばっかり都会風になって成長が感じられない
のに対し、女の子がどんどん大人っぽくキレイになっていく
のが印象的。そういうもんですよね。良い映画だった。

                                                    3.21(土) 早稲田松竹