2015年3月29日日曜日

浮草


☆☆☆★★       小津安二郎       1959年

なんだかウキウキしてしまって、放送日当日に観た。
そしてやっぱり良かった。

旅回りの一座が和歌山(?)の小さな町に、ピーヒャラピー
ヒャラやってくる場面から始まる。興行を打つのである。
中村鴈治郎が座長で、看板女優の京マチ子とは当然デキ
ている。
座長がわざわざ辺鄙な町で興行を打つのには理由があり、
要はこの町に住む杉村春子が昔なじみの女で、彼女との
間には息子もおり、その息子の成長ぶりを楽しみに見に来
たのである。それに勘付く京マチ子は、当然おもしろくない。
なので一座の若手女優の若尾文子も巻き込んで、小津にし
てはだいぶベタベタと湿気の多い人情話が展開される。でも
出て来る役者やカメラワークなんかは「いつもの」やつなの
で、そこにはちょっとした混乱が生じることになる。小津の唯
一の大映での作品らしく、それも関係しているのか。
ちなみに一度サイレント時代に小津自身が制作した映画の、
セルフリメイクがこの映画である。

私が再見したかったのは、この映画でもっとも鮮烈な場面、
雨がたたきつける中、軒下で罵り合うふたりのシーンである。
やはり素晴らしいシーンだった。中村鴈治郎の「あほ! どあ
ほ!」が耳から離れなくなること必至である。

                                                     3.16(月) BSプレミアム


2015年3月26日木曜日

冬の読書④


『「AV女優」の社会学』
鈴木涼美 著      青土社

近頃とみに鈴木涼美さんの文章や対談をいろんな媒体
で目にするが、そして目にすると必ず読んでいるが、ま
すます好きになっている。軽やかな文体と、「きらびやか
な夜の世界」に没入していた自分との距離の取り方が、
絶妙に気持ちいいから。そして"ラスボス"としての「お母
さん」の存在。この、時々登場しては涼美さんに痛烈かつ
無慈悲な言葉を浴びせる「お母さん」の破壊力といったら
ない。

さて、そんな鈴木女史の原点が本書ということでいいのだ
ろう。けっこう大著である。慶応での卒論のテーマを東大
院の修論でブラッシュアップし、さらに本として出すときに
また加筆・修正したらしい。
サブタイトルにあるように、本書の大きなテーマは「AV女優
はなぜ自らを饒舌に語るのか」である。AV女優はとかくい
ろんな場面で(AVで、グラビア雑誌で、インタビューで)「な
ぜこういう仕事をしているのか」「この仕事をする前はどうい
うコだったのか」などの質問を投げかけられ、答えなくては
ならない。それも「うまく」答えなくてはならない。
それはAV女優という職業に特有のタスクといっていい。普
通に会社員をしていて、その手を質問を月に何度もされる
ことはない(ないですよね?)。

テーマを解明する前にまず、「女のコ」が「AV女優」になるま
でにどういうプロセスがあり、どういう会社がどういう役割を
果たしているのか、本書の前半ではとても分かりやすく解説
されている。プロダクション、メーカー、制作会社の連携でこ
の業界は成り立っているそうだ。だいたいAV女優に「単体
女優」と「企画女優」の二つがあって、ギャラも働き方も全然
違うなんてこと、私は知らなかった。

そこから本論に入るわけだが、まああとは実際に読んでくだ
さい。長くなりすぎました。










『回転木馬のデッド・ヒート』
村上春樹 著      講談社文庫

久しぶりに読み返してみた。毎晩ひとつ、という感じで読んだ
のだけど、楽しかったー。至福。
「今は亡き王女のための」と「野球場」はもともと好きだったし、
今回もやはり良いと思った。逆に「雨やどり」「ハンティングナ
イフ」はすっかり忘れていたが、これもなかなか乙ですな。

初めてリアリズムで長篇を書く(=『ノルウェイの森』のこと)た
めの習作として本作を書いたというのは「村上主義者」には
有名な話だが、これが全部作り話だと思うと寒気がするほど。
キレキレである。


2015年3月25日水曜日

レンタネコ


☆☆☆★        荻上直子      2012年

「れーんたーーねこ。ねこねこ」と、キュートな市川実日子
がキュートな猫を満載したリヤカーを引きながら川べりを
歩く。もうすでに勝ったも同然である。すばらしい。

『かもめ食堂』『めがね』『トイレット』と着実にキャリアを積
み上げている荻上監督。またも佳作である。頼もしいね。
毎回作風を変えてくるのがエラい。

                                                3.14(土) BSプレミアム


2015年3月23日月曜日

フォックスキャッチャー


☆☆☆★        ベネット・ミラー      2015年

この映画から何か教訓を導くとすれば
「世の中には頭のおかしい人もいるから、そういう人には近付くな」
ということだろうか。まあ映画は別に教訓を得るために観るわけ
ではないが。

レスリング兄弟と、そのスポンサーになるジョン・デュポンという
奇妙な富豪の話である。静かな狂気とでもいえそうなものが常
に画面に漂っていて、不気味な映画である。
同じ格闘技でも、ボクシングはあんなに「映画映え」するのに、
レスリングという競技はどうも…。レスリング従事者には申し訳な
いけれど、そもそもルールが分からないのは私の勉強不足とし
ても、まず半裸の男が絡み合ってる画というのは、どう見てもうる
わしくない。すいません。

ジョン・デュポンを演じたスティーヴ・カレルというひとが、もともと
コメディのイメージの強いひとだそうで、わたしはよく知らんので
「なんと鼻のデカい、表情の無い役者だ」と思ってたら、付け鼻
だし一世一代の演技だったらしい。すまん。

                                                          3.7(土) 新宿ピカデリー


2015年3月22日日曜日

冬の読書③


『九年前の祈り』
小野正嗣 著      文藝春秋

こないだの芥川賞。
このひともずいぶん何度も候補になってましたね。
全然下手ではないが、なんかあんまり印象がない…。

ちなみに「九年前の祈り」以外の、本書に収録されて
いる短篇は読んでいない。まことにすまん。









『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』
村上春樹 著     新潮文庫

久しぶりに再読。スコットランド、たいへんに美しい
土地だそうな。いいね、行ってみたいね。






2015年3月21日土曜日

ラウンド・ミッドナイト


☆☆☆★      ベルトラン・タヴェルニエ     1986年

破滅的な人生を送る天才ジャズマンを、デクスター・ゴードン
という本当のサックス・プレイヤーが演じている。ご本人がそ
もそも「破滅的な人生を送ってきた天才ジャズマン」だったら
しいが。
演奏シーンはさすがにカッコいい。

                                                       3.5(木) BSプレミアム


2015年3月18日水曜日

冬の読書②


このところ読書が進まないのは、意欲が減退しているわけ
ではなく、「村上さんのところ」のメールを読むのにとてつも
なく時間がかかるからです。
日々膨大な量が更新されていって、なかなか追いつけない。
ふと、この感覚は、必死で「しょこたん☆ぶろぐ」をすべて読
んでいた大学院の頃と似ている気が……。

まあそれはいい。久々に芥川賞を読んだ。

『春の庭』
柴崎友香 著     文藝春秋

こ、これは…。よく芥川賞取れたな。
まったくもっておもしろくないんだけど、どうしたらいいんで
しょう。歴代でも有数の「おもしろさがよくわからん受賞作」
にノミネートされました。それでも『終の住処』よりはマシ。









『エコラム』
リリー・フランキー 著    新潮文庫

すばらしいねぇ、リリーさん。
最近ちょっと文章も影響を受けていると思う。
寝る前にちびちび読んでいた。





2015年3月16日月曜日

川の底からこんにちは


☆☆☆★★       石井裕也       2010年

『愛のむきだし』でブレイク直後の満島ひかりによる、「中の
下」女の熱演を堪能。

ま、懸念はしていたのだが、あくまでこの映画はユーロスペー
ス満場の爆笑とセットで私の脳裏に刻まれているので、部屋
のTVで独りで観ても、それほど特別な映画には見えなかった。
ラスト20分なんて、もうそれこそどかんどかん湧いていた覚え
があるのだけどね。ときに映画というのは観る環境によっても
大きく左右されてしまうものであるなぁ(詠嘆)。

岩松了も、いつ見ても巧いよね。でもこのひとの場合巧いのが
ちょっとイラッとするのが、リリーさんとは違うところ。

                                                        3.4(水) BSプレミアム



2015年3月14日土曜日

Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち


☆☆☆      ヴィム・ヴェンダース     2012年

ピナ・バウシュが率いたヴッパタール劇団の公演と、野外
でのパフォーマンスと、劇団員へのインタビューで構成さ
れている。
私はピナ・バウシュについて語るほどのことは何も持ち合
わせていないが、それぞれの演目もおもしろく、3Dでちゃ
んと劇場で観ればけっこう良いんじゃないかと。映像もキ
レイだし。まあ正直、ヴェンダースだから観たわけで。

                                                  3.1(日) BSプレミアム







<ツイート>
3/16(月)に小津の『浮草』がBSプレミアムで放送されますが、
観れば観るほど似たような話ばかりでだんだん見分けがつか
なくなってくる小津ワールドにあって、この映画はけっこう異色
で、覚えています。忘れられないシーンがあるので、再見して
みるつもりです。
あと15(日)にBS JAPANである『横道世之介』(沖田修一)も、
小説はいまいちだったけど映画はなかなか良かったですよ。
放送時間から見てノーカットだと思います。


2015年3月13日金曜日

アメリカン・スナイパー


☆☆☆★★    クリント・イーストウッド     2015年

連日の大入りらしい。ほんとみんな戦争映画が好きだね。

クリス・カイルという実在の人物が主人公である。
戦場で160人以上を射殺し、英雄として死んだ彼を、称え
るでもなく、突き放すでもなく、映画は幕を閉じる。
私にはなぜか、車に後ろから追い抜かれるシーンの「恐さ」
が印象的だった。ストーリーにはあまり関係ないシーンだっ
たが。しかし戦場で家族に普通に電話していいのかね。

『ジャージー・ボーイズ』は、本国では批評も興行も振るわ
なかったと聞く。一方で『アメリカン・スナイパー』はイースト
ウッド史上最高のヒットとなっているらしい。
なんだかなぁ、と思ってしまうのだが、両方観たひとはどう
思いますか。
それで冒頭のわたしのつぶやきとなるわけである。結局、
みんな戦争映画が好きなんだと考えるしかないと今は思っ
ている。

                                                2.28(土) 新宿ピカデリー


2015年3月11日水曜日

緋牡丹博徒 花札勝負


☆☆☆★          加藤泰       1969年

健さん追悼の3本目。

藤純子が主役で、「緋牡丹のお竜」という侠客を演じる。
美人ではあるが、迫力は…まあまあぐらいか。
最初に仁義を切るシーンがある。文章としてなかなかお
もしろい。冒頭「昭和残侠伝」風の主題歌を藤純子が力
いっぱい歌っているのだけど、なんだか可笑しい。

健さんは中盤まで出て来ない。流れ者のヤクザで、やた
らかっこいい役である。

                                                2.27(金) BSプレミアム


2015年3月9日月曜日

花とアリス殺人事件


☆☆☆★★★       岩井俊二      2015年

そうそう、岩井俊二のストーリー展開ってこういう感じだった
わ、というなんだかとても懐かしいものに触れたような感覚
に襲われた。結局ひとは、中学・高校の頃に好きだったも
のが一生好きなのかもしれない、などということをぼんやり
思う。たいした話でもないのだが、どうも琴線にふれてきや
がる。しかし蒼井優って声優としてもかなりレベルが高いと
思うのですが、どうですか。

勝手な決めつけであるが、岩井俊二というひとは「成熟」か
ら遠ざかれば遠ざかるほど良くなる。『スワロウテイル』や、
『リリィ・シュシュのすべて』など、まあ「中二病」の元祖など
と揶揄されることもあるようだが、唾棄されるべきは追従す
ることしかできないフォロワーであって、元祖はいつだって
偉いのである。

最近でも「なぞの転校生」(テレビ東京)の第1話には久々
に打ち震えた。「こ、これやーー!」と釧路の部屋でひとり
快哉を叫んだものである。残念ながらだんだん面白くなく
なっていったが、まあ連ドラなんてそんなもんだ。

                                                    2.27(金) 新宿バルト9


2015年3月8日日曜日

ファイト・クラブ


☆☆☆★★      デヴィッド・フィンチャー     1999年

TSUTAYAに行って棚を見ると「あーあれも観てない、これも
観てない、うわぁぁあ」となって情緒不安定になるのであまり
行かないようにしているのだが、それでも最近はちょっとづ
つ「観逃してる系」のやつも観ていこうと思っている。
これもそんな1本。

ふーん。こういう話だったのか。率直な感想は「ちょっと無理が
ある」。でもスタイリッシュな映像は今観てもかっちょいい。
しかし、男ってそんなに「殴り合いたい」衝動ってあるかね。
私にはまったくないんだが。

                                                     2.23(月) Blu-ray Disc


2015年3月7日土曜日

ビルマの竪琴


☆☆☆★        市川崑       1985年

なんとも不思議な映画ですな。
清水ミチコが、肩に鳥を乗せてるひとに「ビルマの竪琴か!」
とツッコんでたけど、やっと意味が分かった。

こういう、ひとの内面にフォーカスした表現というのは難しい。
ひとの「心」は画面には直接映らないので、なにかで代替させ
て表現するほか無いのである。
結局、こういう話っていうのは、小説のほうが適しているんだろ
うと思ってしまう。若き中井貴一の熱演にはもちろん敬意をはら
うけれども。

                                                   2.23(月) BSプレミアム


2015年3月4日水曜日

昭和残侠伝 死んで貰います


☆☆☆★★        マキノ雅弘      1970年

健さん追悼の二本目。

「筋の通らない」ことがまかり通る世の中で、身の危険を
かえりみず、命を賭して「筋を通す」健さんに胸がすく思
いがするのは、もしかすると私も多少は大人になったと
いうことなのだろうか。
大人になった自覚はまったく無いので、たぶん気のせい
だろう。あるいは「筋の通らない」映画の見過ぎで、単純
明快な映画が新鮮に見えているだけかもしれない。

大銀杏の下で一度だけ会った健さんを慕い続ける芸妓
の藤純子が健気である。

                                              2.21(土) BSプレミアム


2015年3月3日火曜日

味園ユニバース


☆☆☆★        山下敦弘        2015年

「山田孝之の東京都北区赤羽」も絶好調の山下監督だが、
『超能力研究部の3人』に続いて早くも新作映画の公開で
ある。めでたい。

音楽が中心に据えられた青春映画というと、当然山下監督
には既に『リンダ・リンダ・リンダ』がある。あちらも青春映画
のわりにアンチ・クライマクスというか、わざと盛り上げない
ように演出しているように感じたが、今作もやはりそういう
傾向が見えたように思う。まあ、もともとのストーリーがけっ
こう「ありきたり」の域を脱していないような気もしたが。

スイカの種を飛ばし合う長回しのシーンがほほえましい。
PAでミキシングをする二階堂ふみが見られるが、去年ぐら
いまでほんとに女子高生だったはずだけど、すでに制服が
コスプレにしか見えないのはなんでだろう。色気がありすぎ
るのだろうか。

                                                  2.20(金) 新宿バルト9


2015年3月1日日曜日

エクソシスト


☆☆☆★★      ウィリアム・フリードキン    1974年

「岩井俊二のMOVIEラボ」でホラー映画特集があり、とても興味
深く観た。「ホラー映画ほど工夫の多寡や技術的な巧拙が如実
に表れるジャンルは無い」とかねてから私は思っていて、何度か
ブログにも書いたが、やはりホラー映画の大家も同じようなこと
を既に言っているらしい。「恐怖演出はテクニック」なのである。

番組の中で岩井俊二が『エクソシスト』を評して「ホラーというジャ
ンルに関係なくベスト3に入る」と手放しの絶賛である。これは観
ないわけにいかん。

たしかに、ブリッジで階段を降りてくる少女や、首が真後ろまで回
転するシーン(下画像を参照)は有名だが、何の話なのかは知ら
なかった。実際は「うしろメタファー(©みうらじゅん)」をキーワード
にした、わりと複雑な物語なのである。
色んな「後ろめたい」ひとたちが出て来る(でも、一つも「後ろめた
い」ことの無いひとなんているだろうか?)。それがやがて、少女
リーガンに取り憑いた悪魔と、悪魔祓い(=エクソシズム)を依頼
された神父との対決の物語に収斂されていく。
正直、そんなに怖くはない。何度かゾッとするシーンはあるが。

それにしても、あの傑作『フレンチ・コネクション』と同じひとが監督
なのか! それはすごい。その後はヒットには恵まれなかったよう
だが、この2作を世に放っただけでもう充分、お疲れ様でした、とい
う考え方もある。

                                                                         2.20(金) DVD








<ツイート>
3日(火)、BSプレミアムで
「川の底からこんにちは」
が放送されますよ!
釧路に旅立つ3日前ぐらいに、満員のユーロスペースで
観た幸せな記憶のことはブログにも書きましたが、今回
ひさびさに再見してみるつもりです。
まだ観ていない方はぜひ。