2014年8月31日日曜日

ホットロード


☆☆         三木孝浩        2014年


ひどいんだろうなと思って観に行くと、案の定であった。
覚悟して観たんだから文句を言う筋合いでもないか。

しかしこのひとは『ソラニン』からほとんど変わっていない。
まず最低限の辻褄は合わせて欲しいものである。暴漢に
襲われたときどうやって助けの電話をかけたんだとか、勝
手に家に入って来ていいのかとか、敵のアジトはなんで分
かったんだとか、どうやって先回りしたんだとか、細かい部
分がザルすぎてイライラする。

暴走族内部の力関係のことは私にはよく分からないが、新
しく族のリーダーになろうという男が、いたいけな中学生と付
き合っていても、それは別に威厳とかには関わらないのだろ
うか。何だか気になって仕方なかった。
別にロリコンが暴走族をやって悪いわけではないが、仮に私
が暴走族の下っ端で毎日こき使われているとして、新たにリー
ダーを襲名した男が中学生と付き合っていたら、なんかシラ
けるというか、やめたくなると思うが。
でもきっと、すれっからしとしか付き合わないはずの暴走族の
リーダーが、純真な中学生と付き合うという、そこがまさに原
作マンガの新しいとこだったんだろうね。失礼しました。しかし
ヤクザ映画は大好きなのに、ヤンキーの映画にちっとも面白
いものが無いのはなぜだろう。社会性が無いからだろうか。
能年ちゃんも、これに懲りたらヤンキー映画にはもう出ない方
がいいね。

                                                         8.21(木) 新宿ピカデリー


2014年8月24日日曜日

読んだ本②


『女体の森』
みうらじゅん リリー・フランキー 著    扶桑社

週刊SPA!の連載「グラビアン魂」、その7年半(!)にもおよぶ長
大な歴史からいいとこどりをした渾身の「グラビア論」である。これ
は一つの「達成」であり「金字塔」であって、もう後にも先にも、かく
もばかばかしい情熱をもって、のみならず、その情熱を"持続"させ
て、ただただ「女体」について語り続けた本は出ないのではない
か。大著ではあるが、個人的には必読の書と考える。

まあ色んなことに造詣が深いおふたりなので、笑っちゃうだけでな
くそれを通り越して感心してしまうことも多いのだが、ちょっと気に
入った部分を抜粋。話の流れとしては、グラビアのコにも彼氏が居
たりするかもしれないけれど、それはいたずらに羨ましがったり妬
んだりするものではない、というくだり。

リリー たとえば後輩の彼女に水着見せてって言っても、見せてくれ
     ないでしょ。でもグラビアのコは仕事とはいえ水着姿を見せ
     てるんですよ。となるとこれはもう、"ありがたい"なんですよ。
みうら 年取ると、その"ありがたい"という精神が芽生えてくるよね。
リリー 棟方志功が「ありがたやありがたや」って言いながら彫ってた
     じゃないですか。あれですよ。

ここで棟方志功がぱっと出て来る反射神経がもう最高である。










『いのちの食べかた』
森達也 著       角川文庫

食肉加工について、子ども向けに分かり易く書いている。ぼくたちが
食べる豚、牛、鶏の肉は、「どこで」「どのようにして」殺され、加工さ
れているのだろう、ということだ。子ども向けとはいえ森さんの「いつ
もの感じ」は消しておらず、周りに合わせず自分の頭で考えること、
自分で想像してみることが何よりも大事だ、と説く。こういう題材の
解説に、森さん以上の適任はいないだろう。
芝浦屠場の話から始まり、江戸時代の身分制度から被差別部落の
話にも当然なっていく。

森さんは『東京番外地』でも芝浦屠場に行っていたが、やはりドキュ
メンタリーにしたいと思って何度か通っていたらしい。しかし企画が通
らない、と。また言ってるよ、と森さんの読者なら思うだろう。まあ、森
さんらしいですよね。

装画は五十嵐大介。









2014年8月22日金曜日

男はつらいよ 旅と女と寅次郎


☆☆★★★       山田洋次     1983年


都はるみがマドンナという異色回だが、たいしておもし
ろくはない。
もう吉岡秀隆もだいぶ少年になってるなーと思ったら、
よく考えると83年は既に「北の国から」やってるんだね。
最初のシリーズが終わって、スペシャルドラマ第1作の
頃だ。

                                               8.15(金) BS JAPAN


2014年8月17日日曜日

ニシノユキヒコの恋と冒険


☆☆☆★★★        井口奈己       2014年

こちらが本命。
評判通りの快作だった。

ただ長回しの多用は相変わらずで、単純に各シーンあと5秒ず
つ短くすればもっと良くなるんじゃないかと思うのだが、そんなこ
とを臆面もなく書く奴には井口映画を論評する資格すら無いん
だろう。でも…、長いよね?

世紀のモテ男を竹野内豊がナチュラルに演じており、まったく嫌
味が無い。そりゃモテるだろうねぇ、という感じ。次々と女の子に
「愛されてしまう男」ってことで連ドラにしても面白いんじゃないか
と一瞬思ったが、この独特のユルいテンポは120分と割り切って
いるからこそのものだな、と思い直した。

本田翼が意外な好演。めちゃくちゃ可愛い。元カレ(竹野内)と
伊香保温泉に泊まりに行っちゃうような小悪魔っぽい女の子を
過不足なく演じていて、ただのモデルかと思ってたが、見直した。
今後出演作も増えていくんじゃなかろうか。

                                                                    8.13(火) キネカ大森


2014年8月14日木曜日

ほとりの朔子


☆☆☆★★         深田晃司       2014年


2本立て。
キネカ大森は前から気になっていた。セレクションがなかなか絶妙
なので、いつか行ってやろうと思っていた。新作映画と名画座の両
方をやっているらしく、名画座のほうは客席70ほど(たぶん)。今回
はギリギリ入れたが、次から時間に余裕をもって行かないと、大森
まで行って満席で入れないということもありうる。きっと悲しいだろう。

ほんとはこの後の映画が目当てだったのだが、二階堂ふみ主演の
この映画は拾い物というか、ずいぶん楽しませてくれて良かった。
テイストとしては、山下敦弘なんかのトボけた感じと、「川の底からこ
んにちは」の石井裕也の、ちょっと露悪的な際どいユーモアを併せ
たようで、けっこう独特である。監督・脚本・編集を自分でしていると
いうことで、久しぶりに良い感じのひとかもしれない、と思った。

二階堂ふみが受験に失敗した浪人生という役どころで、高校3年生
の男の子とかも出て来るのだが、二階堂先輩がどうにも肉感的とい
うかその成熟っぷりたるやいわゆる「ヤバい」というやつで、あんなコ
が予備校に居たら周りの男子はみんな大学落ちるだろうよ。

途中、ニセ浅田彰みたいな大学教授が出て来ておもしろかった。
しかもサイテーな奴っていう。あと想田和弘が出てたらしいんだけど
気付かなかった。どこに出てた?

                                                                8.13(火) キネカ大森


2014年8月11日月曜日

読んだ本


『映画にまつわる x について』
西川美和 著    実業之日本社

西川さんは大好きな映画監督だが、文章もうまいのである。
おもに『夢売るふたり』撮影の前後に書かれたエッセイを集め
た本。これがなかなか素晴らしい。自虐ネタも多いが、嫌味じゃ
ない。素敵なひとなんだと思うなぁ、西川さん。憧れます。










『呪いの時代』
内田樹 著    新潮文庫

現代は「呪いの時代」なんだそうである。
またおんなじようなこと言ってるよ、と思いながらもついつい読んで
しまうという。正直いって後半は「呪い」とはあまり関係なかったよう
な気もするが、前半の「呪い」論はおもしろかった。たいていの本は、
読んで2週間もするとぼんやりした印象だけで、フレーズはひとつも
思い出せなかったりするのだが、このひとの本はたいてい記憶に残
るフレーズがある。たぶんそういう工夫をしているのだろう。今回は
「かけた呪いは自分にかえってくる」「贈り物は、もらったひとにその
価値を決める権利がある」の二つ。









2014年8月9日土曜日

グランド・ブダペスト・ホテル


☆☆☆★★        ウェス・アンダーソン      2014年

4年ぶりに帰って来たぜ東京。
どんな映画だって見放題だ~とか思って油断してると、かえって全
然観なくなるという現象はよくあるものだが、その陥穽には落ち込ま
ぬよう、積極的に東京(の映画館)を闊歩する所存です。西であの映
画をやっていると聞けば仕事終りに駆けつけ、東でこの映画を…とい
うやつです。

復帰第一弾は、見逃していたウェス・アンダーソンの新作。
評判はかなり上々だった。あまりみんな褒めるんで半信半疑で観た。
『ムーンライズ・キングダム』より俄然スケールアップはしているが、お
もしろさは半分ぐらいかな。幸福な時間には違いないが。

                                                             8.2(土) 角川シネマ新宿


2014年8月6日水曜日

映画化されるマンガ


久しぶりにマンガを読んだ。
どちらも映画化を控えている。だから読んだのだけれど。

『海街diary』
吉田秋生

単なる美人四姉妹だと現実味が無くておとぎ話めいてくるが、
三姉妹+異母妹の四人にしたというのがアイディアとして秀逸
である。そういう「ねじれ」が、本作をお気楽な青春学園マンガ
ではなく、「大人が読んでおもしろい」作品にしているのは間違
いなかろう。

自分が映画化するんなら…ということでキャストの妄想を展開
していたのだが、もう本当のキャストが発表されていた。
酒飲みで男好きのOLである次女はぜひ北川景子と思っていた
のだが、長澤まさみか。まあ良いかも。
しっかりものでショートカットでちょっと色っぽい長女、これが一
番難しいのだが、是枝カントクは綾瀬はるかを選んだそうな。
うーん。イメージとは違うが、アリかもしれない。

来年の夏、公開予定。是枝さんが描く鎌倉、青春、四姉妹。
楽しみだ。










『リトル・フォレスト』
五十嵐大介

農業、というか「食」そのものをテーマにしていて、なか
なか変わっている。あくまで「添え物」というか「背景」的
な感じで微妙な人間関係も描かれるが、まあ映画では
そのへんをもうちょっと前景に持ってくるのだろう。
登場する食い物はみんな美味そうなものばかりである。
主演は橋本愛。いち子をあんな美少女が演じるのか、
とも思うが、映画は客を呼べないと意味がないのだから
これもある意味正解なのだろう。ちょっと都会的すぎる
気もするが。