2014年5月21日水曜日

芥川賞、久しぶりに


「穴」
小山田浩子 著

久しぶりに芥川賞受賞作を読んでみた。
今回はいとうせいこうの「鼻に挟み打ち」や岩城けいの「さようなら、
オレンジ」など、候補に話題作の多い珍しい回だったようだ。
そんな中での受賞作「穴」であるが、まあ力量はあるんだろう。文
章は読み易い割にヘンに軽くなくて、読み応えもある。ただいかん
せん、全体に、地味だよね。

引っ越しを機に仕事を辞め、いわゆる「専業主婦」となった主人公
が、蝉がわんわん鳴いている夏の田舎で暇を持て余すところから
小説は始まる。なんとなく料理や散歩に精を出したりしているうちに、
河原で奇妙な黒い獣を見かけたり、奇妙な隣人が現れたり、穴に
落っこちたり、もっと奇妙な「夫の兄」が現れたり、おじいちゃんが
徘徊したりと、まあいろいろ「文学的」なことが起こるわけである。
しかし、どうも「既視感」がつきまとうのはなぜなのか。どれもこれも
「ありがち」な感じがして仕方がない。ただ、決して悪くはない。実は
このあとも近年の芥川賞受賞作をいくつも読んだのだが、「穴」は
けっこうレベルが高かったことをいま実感している。既視感は、ある
いは私が「芥川賞的なるもの」を読み過ぎた弊害なのかもしれない。



「苦役列車」
西村賢太 著

山下敦弘の映画を小説よりも先に観てしまったわけだが、前田敦子
が演じた古本屋の娘こそ映画版の創作であるものの、あとは意外に
忠実に映画化していたことにまず驚く。森山未來の憎悪に満ちた表
情とともに映画史に刻まれた「このコネクレージーどもめが!」という
あの名セリフが、よもや小説そのままだったとは思わず。意外であっ
た。西村賢太、やるじゃん。

映画を先に観た副作用として、小説の登場人物たちは森山未來や
高良健吾の顔でしかイメージできなかったわけだが、私はけっこう楽
しく読み進めた。自嘲的な文章というのは、場合によって読者には
心地よいものである。私小説私小説と自他ともに囃すけれど、著者
と主人公の距離感はそれほどべったりという感じはしなかった。節度
ある距離、といっても良いように思われた。

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