2013年7月22日月曜日

ちかごろの読了本③


『わたしを離さないで』
カズオ・イシグロ 著  土屋政雄 訳  ハヤカワepi文庫

ひさびさに小説らしい小説を読んだ気がする。
読み終わってもけっこう「後を引く」小説である。何も考えてない
ようなとき、ふと気が付くと、キャシーとトミーのことを考えていた
ことに気付く、そんな感じの。"精緻"という言葉がピッタリくる、
優れた小説だと思いながら読み進めた。精緻と書いたが、ヘー
ルシャムに関するいろいろな細かい規則とか校風とか、施設の
あれこれとか、ここまで造り込むともう偏執狂と変わりないよね。
静かな筆致だけに余計怖い。

もともとの文章も巧いんだろうが、翻訳も巧い! 土屋政雄の翻
訳で、『エデンの東』とかこれまでもいろいろ読んだけど、このひと
の文章はすごく好きだ。












『ブラス・クーバスの死後の回想』
マシャード・ジ・アシス 著  武田千香 訳  光文社古典新訳文庫

ブラジル文学界の巨人(らしい)、マシャード・ジ・アシス[1839-1908]さん
の代表作(らしい)。おおざっぱに言えば、ブラジルの漱石みたいなひと
なんだろう、きっと。
本作は、内容というよりも叙述形式が非常に変わっており、著者が死んだ
あとの著述という体をとっている。『トリストラム・シャンディ』にも影響を受け
(本の中でもそう言っている)、あちこちに話題が飛ぶ饒舌でとりとめのない
文章が特徴である。そこで、我が国の読者はちょっと『吾輩は猫である』を
想起したりするわけである。
なるほど、ナラティブで勝負するラテン・アメリカ文学の源流がこのへんに
あるわけか。

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