2012年2月25日土曜日

ドラゴン・タトゥーの女


☆☆☆★★     デビッド・フィンチャー     2012年

サスペンスとして及第点はいっていると思う。スキャンダルの渦中
から逃れたい雑誌記者と、背中にタトゥーのある天才ハッカー少女
のコンビがまずおもしろい。スウェーデンの島、少女の失踪、華麗
なる一族、突き放したラストも切なくていいんじゃないか。

ただ惜しむらくは、最後いよいよ登場する殺人鬼に魅力がない。
『羊たちの沈黙』以来、猟奇殺人者にはひとしくレクター博士なみの
人間的魅力が求められることになっているのである。そういうルール
である。今回の、変態度はまあまあだが、動機も手法もいまひとつ
インパクトに欠ける。

しかし158分あったとは思えない。さすがはフィンチャー兄貴だ。

                                       2.14(火) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2012年2月19日日曜日

吉原炎上


☆☆★★        五社英雄      1987年

画面の中では女優さんたちが懸命にがんばっていらした
が、いかんせん退屈であった。こういう、いかにも「カツド
ウ屋」然とした映画は、きっちりきっちり作られているが故
に、時とともに魅力が褪せるのも早いのだろうか。時代遅
れ感がはなはだしいのである。『写楽』もこういう感じだっ
たなぁ、と思い出す。

冒頭、名取裕子が身売りされて吉原に足を踏み入れる描
写こそ「お、ブラタモリ吉原篇で見たやつだ」とおもしろがっ
て観ていたが、あとはずーっと、誰にも感情移入できず、
体当たり演技の連続にも「うん…」という感慨しかなく終わっ
てしまった。残念!

                                                 2.12(日)  BS-TBS


2012年2月14日火曜日

最近かたづいた本⑦


『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか 超大国の悪夢と夢
町山智浩 著   文春文庫

このひとのコラム、けっこう好きである。
文春に書き始めたのは、一昨年だっただろうか。それ以前か
らブログはちょくちょく読んでいたが、町山さんの書くものをちゃ
んと読み始めたのは文春のコラムが最初である。

このひとは、サンフランシスコの橋を渡った向こう、バークレー
に住んでいる。子どももいて、現地の学校に元気に通っている
らしい。町山氏は映画評論家であり、現地で映画を観まくって、
日本で未公開だけどおもしろい映画を紹介したり、日本で公開
が実現するよう配給会社にかけあったりしている。また、「今の
アメリカ」そのものの評論家でもあり、アメリカの「アメリカ性」が
よく出ている事件なんかを、日本でいうスポーツ紙の三面記事
からひろって皮肉たっぷりに紹介したりしている。文春のコラム
とか本書は、こっちですな。

この本は週刊現代の連載をまとめたもの。ひとつひとつは、読
んでいて決して愉快なばかりではないのだけれど、アメリカとい
う国の滑稽さを、ちょっと顔をひきつらせながら笑いのめす感じ
で、まあ、なかなか他では得がたいおもしろさといえるだろう。
町山氏のコラムから見えるアメリカは、非常にグロテスクである。









『再会と別離』
四方田犬彦 石井睦美  著   新潮社

いまどき珍しい「往復書簡」。
装丁の感じから、これは四方田犬彦の「アタリ」のほうに違いない
と判断して読んでみた。なにせ当たりはずれの多いひとだからね。
果たしてこれは「なかなかの当たり」だった。「なかなかの」を付け
たところを汲んでいただければありがたいが、おおざっぱに言って
前半がおもしろい。特に若き編集者だった石井さんと、ある老作家
とのつきあいが、とても繊細な文章でつづられる章は白眉である。
後半は、ちょっと話が個人的になりすぎて、きつい。
お読みになれば誰しも、思わぬ固有名詞が思わぬところから飛び
出してくるおもしろさが味わえるかと。









『期間限定の思想 「おじさん」的思考2
内田樹 著   角川文庫

あまりにも読み易いんで、ついつい読んじゃうんすよねー。
ナラティブの勝利。
次は『日本辺境論』読む予定。




2012年2月13日月曜日

お引越し


☆☆★★★       相米慎二     1993年

脚本はのちに『サマーウォーズ』を書く奥寺さんね(共同脚本)。
この映画、好き嫌いでいえば、好きじゃない。『毎日が夏休み』
も『ウホッホ探検隊』もそうだったが、"壊れかかった核家族"
をどうこねくりまわしても、おもしろくはならないらしい。描いてる
世界が狭くなるというのも一因だろう。

脚本はよく練られているし、長回しとロングもたっぷりあるのに、
なんだか楽しくないんだよね。
「おめでとうございまーす!」もよくわからん。
田畑智子が「東へ西へ」を歌うくだりは良かった。

                                                         2.8(水)  BSプレミアム


2012年2月12日日曜日

安城家の舞踏會

☆☆☆        吉村公三郎     1947年

公開が47年だから、製作は46年だろう。敗戦からたった
1年! その混乱と窮乏の時代(だったろう、きっと)に、
ある華族の崩壊を描いた浮世ばなれした映画が作られ
ている、その事じたいが驚きである。
脚本は新藤兼人。

                                             1.30(月)  BSプレミアム


2012年2月11日土曜日

姉妹


☆☆☆★★★       家城巳代治      1955年

傑作である!
この映画を「家族の映画五十選」に選んだ山田洋次監督に感謝。
私はこういう、深刻ぶらないシリアスさ、そして明るさが大好きな
のだ。妹思いでしっかり者の姉、おてんばで真っ直ぐな性格の妹、
という黄金パターンがのちの「姉妹もの」に多大な影響を与えた
だろうことは想像に難くない。
まあそんなことはどうでもよくて、おもしろかったですよ。本気で。

                                                       1.29(日)  BSプレミアム


2012年2月1日水曜日

ヒミズ

☆☆☆★★         園子温       2012年


★ひとつ追加で「傑作認定」したい衝動に駆られるが、ここは思い
とどまろう。最近3作の園作品の「しつこさ」には違和感を感じ、毎回
減点しているのである。それを言ったら『愛のむきだし』だって『奇妙
なサーカス』だって、相当しつこかったかもしれないが、どうもなあ、
うまく説明できないけれど、やりすぎ感が先に立ってしまうのである。
『冷たい熱帯魚』では死体を解体するシーン、『恋の罪』では「堕ち
ろ!」とがなるシーン、本作でいえば、人を殴るシーンが、しつこい。
暴力描写も、多すぎるとインパクトが薄まるのは当然で、バスの中
での傷害とか、でんでんの事務所に乗り込む妄想とか、必要だった
のかなぁ。過剰さが魅力の園さんだからこそ、「出し惜しみ」も必要だ
と思う。

しかしパワーに満ちた映画であるのは間違いなく、観ていて嬉しくなっ
た。"エラン・ヴィタール"と呼びたい輝きを放っていたのが、二階堂
ふみという主演女優で、私は初めて観たが、すごいね。逸材。『害虫』
の宮﨑あおいを彷彿させる眼ヂカラ。スクリーン越しでも恐いよ。今後
も、出演作に恵まれることを願ってやまない。

                                          1.23(月)   シネマフロンティア札幌