2011年11月30日水曜日

朱花の月


☆☆☆★       河瀬直美      2011年


説明過剰がうっとおしい「ツレうつ」から一転、説明無さすぎて
よくわからんシーンも散見されるが、説明過剰よりはよっぽど
いい。全面肯定はできかねるが、けっこう楽しめた。河瀬さん
「撮影・脚本・監督・編集」ってマジかよ。すごいな。

登場人物は、奈良の橿原に暮らす若めの男女。男は役所勤
め(?)、女は染色家、というのだろうか、布を植物の色素なん
かで染めてストールを作ったりしている。女には別に恋人が居
る。そいつは自転車で行ける距離に住んでおり、自分の工房
のようなのを持ち、彫刻などをしている。芸術家。わりと男前だ
が、顔がキリンジの弟のほうに似ている。登場人物はほとんど
この3人。

冒頭、神秘的な満月をバックに和歌が詠まれ、続けて歌の意
味が語られる。それが「ひとりの女をふたりで取り合い」みた
いな内容なので、3人の関係の把握を助けている。道ならぬ恋
をしているわりには、映画的にはあくまで静かに、淡々と3人の
日常が描かれる。地元でとれた野菜を朝に昼に食べるのだが、
ものすごく旨そうである。
奈良を舞台に万葉集を持ち出してきたことからほとんど必然的
に時間というものが主題のひとつになる。万葉集の時間、第二
次大戦中の時間、そして現在、三つの時制が互いに侵食しあう。
人間関係が錯綜し、そして、ある破局がおとずれることで物語は
終わるのだが、このラストには首を傾げざるを得ない。無理に結
末をつけようとしたように感じたので、ちっと減点。

                             11.17(木) ワーナーマイカルシネマズ釧路



2011年11月28日月曜日

ツレがうつになりまして


☆☆★★       佐々部清     2011年

あおいさんの可愛さに、これでもついつい点数をオマケしている
のだが、まったく好きな映画ではなかった。別に内容のことを言っ
ているわけではない。そりゃあ鬱病という病気についての正確な
知識は広く共有されるべきだと思うし、患者に対する周囲の理解
がこの映画ですこしでも促進されるのであれば、それに異議を申
し立てる筋合いは何もない。ただ、純粋に映画として、私はこうい
う映画はどうでもいいというだけである。

もともと神経質なところのあった夫がある日、不眠に悩まされて
訪れた病院で鬱病と診断されたことをきっかけに、夫婦で鬱病
と向き合い、病気と付き合いながら生きていくことを学んでいく、
という構造になっている。筋書きからしてありきたりだが、明らか
に肝となる箇所に置かれたセリフ、曰く、
「うつになった原因ではなく、うつになった『意味』を考えたい」
「頑張らなくていいんだよ」
「ツレがうつになったと『言えた自分』をほめたい」
こういう陳腐きわまりない、聞いててこちらが恥ずかしくて縮こまっ
てしまうようなセリフを、わざわざ重要な場面に持って来る神経を
私は疑うだけである。
繰り返すが、セリフの中身、言ってることが気に入らないわけで
はない。映画でやらなくてもいい、と思うだけである。

                            11.16(水) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年11月25日金曜日

最近かたづいた本②


『ゴダールと女たち』

四方田犬彦 著      講談社現代新書

女たち、ということで俎上にあがるのは『勝手にしやがれ』のジー
ン・セバーグ、『女は女である』『はなればなれに』『気狂いピエ
ロ』に主演し、ゴダールのミューズといえばやはり今でもこのひとの
アンナ・カリーナ、『中国女』のアンヌ・ヴィアゼムスキー、番外で
『万事快調』のジェーン・フォンダ、そして約40年前より現在に至
るまでのパートナーであるアンヌ=マリ・ミエヴィル。
「女たちを軸にゴダールを語る」というのがもちろん本書のミソで、
四方田氏の得意顔が目に浮かぶようだが、センセイ意外と今回は
おとなしめで、あんまりおもしろくなかったというのが正直な感想。
センセイなりにもっとハッタリかましてくれないと。しかし比重の問題
として、女たちのエピソードが多いとゴシップ本っぽくなってしまうし、
各映画の要約が多いとどうしても退屈である。本書は、後者に近い。












『持ち重りする薔薇の花』

丸谷才一 著       新潮社

十年に一冊しか長篇を発表しないかはりに、毎回、楽しみに待つ
に十分値する上質な小説を、われわれ庶民にご提供くださる丸谷
御大。今回は前作『輝く日の宮』から八年しか(しか!)経ってゐな
いからかなのか、読み終へてどうも「長篇読んだー!」といふ満足
感には程遠く、腹にたまらない、とでもいふか。長めの中篇といった
おもむきであった。それが悪いと言ってるわけではないが、八年ぶ
りでこれなら、十年かけて長篇を書き上げていただきたかった、と
いふ、まあ単なる読者のわがままです。十年後も、お待ちしてをり
ます。

元経団連会長の昔語りの小説なんて、丸谷さんにしか書けないし
誰も書かうと思はないだらう。中心になるのは、その元経団連会長
を勤めた人物と、若き弦楽四重奏団(カルテット)との付き合ひ。
その辺の人間関係の綾を書かせればもちろん見事なものである。
そしてやはり、正かなづかひで新作小説を読めるといふだけで嬉し
い。ただ、ハイライトが「紫一色の虹が立つ!」では、どうも寂しい気
がしたが。




2011年11月23日水曜日

マネーボール



☆☆☆★★       ベネット・ミラー     2011年

最近「実話をもとにした」と宣伝あるいは宣言する映画がやたら
多くて、そろそろ辟易ぎみであるけども、本作はそんな中でもまあ
秀作でしょうな。
話としては別に新しくも何ともない。ブラピは、金も人材も無い弱小
球団を立て直し、リーグ優勝に導くGMである。ただ相棒がいて、
若造なのだけど、これがけっこうおもしろいことになっている。日本
には記者を集めて泣きながら会見をしたGMもいたが、こちらのGM
はえらくカッコいい。
枠組みに新しさは無いけども、映画のトーンがわたしの好みだから
しょうがないやね。こういう表面上は抑制の効いていて、でも底流に
はマグマが煮えたぎっている気配が感じられる雰囲気がどうにも好
みで。表面で派手にバンバンやられるよりも、薄暗いロッカールーム
でブラピがチームの勝利に小さくガッツポーズする「いじらしい」描写
のほうを良しとする者である。

満足の鑑賞後、帰って製作者のクレジットを確認すると「製作」「脚
本」に『ソーシャル・ネットワーク』と共通の名前があるんだね。監督
こそ違えど、全体のトーンにどうも共通するものを感じたのはそうい
うわけなのか。

                                 11.13(日)  ワーナーマイカルシネマズ釧路



2011年11月22日火曜日

ハラがコレなんで

☆☆★          石井裕也         2011年

ひどかった。
少なくとも私には、どこがおもしろいのかさっぱり分からな
かったね。
札幌で観たのだが、客はわたしを入れて3人。まあ、しょうが
ない。「川の底からこんにちは」は別に大ヒットしたわけじゃ
ないし、そもそも札幌で公開してないのかもしれない。前作
「あぜ道のダンディ」も全然評判になっとらんようだし、石井
裕也なんて全国区じゃないだろう。それに、話は変わるけど
も、あれなんだってね、監督名で新作映画を観るってことあ
んまりしないらしいね、世間一般には。出てる俳優だとか、
予告編のだいたいの感じで観るかどうか決める、という人が
私のまわりにも多い。女優を見るため、というのは、私もたま
にあるから分かる。しかし、予告編なんてまったくアテになら
んだろうに。というかというか、そもそもあれなんだってね、
映画なんて普通年に何本も観るもんじゃないらしいね。まあ
それがいいのかもしんない。あるいは。

えーと、話が逸れましたが、「川の底からこんにちは」の時
ユーロスペースは爆笑の渦だった…という話は以前もしまし
たが、今回笑ってるひとは居ませんでしたな。この差はどこ
から来るのだろう。もちろん映画のデキがまったく違うわけで
す。演出がうまくいかなかったのか、脚本を練る暇がなかっ
たのか。まさかヒロインの差ではあるまい。
脚本がもともとズレているというのを強く感じた。「川の底か
ら~」にはほんとうに驚かされたし、「いちばん良いときの伊
丹十三」を彷彿させる作風だ、とまで言わしめたものである。
私に。
この作品にはそんな面影はこれっぽっちも無い。公開中の
映画の悪口はこのぐらいにしといた方が日本映画のためか
もしれないが、これを観るぐらいなら「川の底から~」を借り
て観ましょう。

                                  11.9(水)  ユナイテッド・シネマ札幌


2011年11月14日月曜日

最近かたづいた本


『蜘蛛女のキス』

マヌエル・プイグ 著   野谷文昭 訳   集英社文庫

舞台は刑務所。同室の男どうしの会話で始まる本書は、ほとんど
すべての部分がそのふたりの会話で占められる。しかも会話の大
部分は、男がもう一方の男に映画のあらすじを語って聞かせてい
るのだから、かなり奇妙な小説といえるだろう。しかしその「語られ
る映画」が、微に入り細を穿ってほんとにおもしろい、たぶん実際
に映画を観るよりもおもしろい気がする。「小説の強度」といったも
のを感じる小説だった。どんな形式だろうと、語られているのが映
画のあらすじだろうと、小説はそんなの全部飲み込んでおもしろく
してしまう、そうだろベイビー、という感じ。










『お言葉ですが… 別巻3 漢字検定のアホらしさ

高島俊男 著    連合出版

わたくしのこよなく敬愛する高島先生、あいかわらずハズレなしの
圧倒的な面白さです。『諸君!』の連載が雑誌の休刊で終わって
しまってから何をしてらっしゃるのかと気がかりでしたが、いまは講
談社のPR誌「本」に「漢字雑談」という連載があるようですね。最近
知りました。あとは、連合出版から年に一度出されるこの『お言葉
ですが…』にいろいろな文章を書き下ろしていらっしゃるようです。
わたくしは、高島先生と村上春樹にはとにかくお元気で長生きして
もらって、一文でも多くの文章をこの世に残してもらいたいと心から
願う者であります。









『本音を申せば』


小林信彦 著    文春文庫

文春連載のコラムをまとめたもの。もしも小林さんの連載がなくなっ
たら、いよいよ週刊文春は買わなくなるだろうなー。「顔面相似形」が
ある週は除いて。




2011年11月12日土曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


ツアー「魂のマーチ」

1. 敗者の刑
2. 幾千光年の孤独
3. 光の結晶
4. パラノイア
5. カラス
6. 野生の太陽
7. 墓石フィーバー
8. ガーデン
9. 夢の花
10. キズナソング
11. シリウス(新曲)
12. 声
13. コバルトブルー
14. 戦う君よ
15. 世界中に花束を

《Encore》
1. クリオネ(新曲)
2. ブラックホール・バースデー
3. サイレン

                                 札幌PENNY LANE 24     11/8


相変わらずいいですわー。
彼らの場合かならず「良いバンドだ…」という感想になる。4人のたた
ずまいがまず良いんだね。その関係性も。CDではそこまで分からな
いが、ライブだとそれが見える。

山田の声の調子は最高でした。そしてこの、初心者にやさしいようで、
実はけっこうシブいというセットリストが良いね。基本的に何をやって
くれても嬉しいんだけど、「カラス」と「墓石フィーバー」は特に嬉しかっ
た。欲をいえば「敗者の刑」→「扉」、「世界中に花束を」→「初めての
呼吸で」に換えればほぼ完璧…そんなこといっても始まらんが。

評判の新曲「シリウス」を聴いてぼんやり思ったことをそのまま書いて
みる。このバンドにもやはり初期、中期、現在で曲調が変わってきて
いるところもあって、この新曲は僕の感じでは「中期っぽい」、つまり
「ヘッドフォン・チルドレン」~「太陽の中の生活」あたりの匂いがする
曲ではあった。ただそれが「昔っぽい感じを再現してる」というふうに
はまったく聞こえないのがこのバンドの良いところであるのかな、と。
「昔の感じ」にもあざとくなくすっと移行できる。そしてまた次の曲では
現在に戻って来ても何も違和感がない。

良いバンドなんすよ、ほんとに。


2011年11月7日月曜日

ロープ


☆☆☆      アルフレッド・ヒッチコック     1948年


                                                11.3(木) BSプレミアム


2011年11月4日金曜日

ミリキタニの猫


☆☆☆★★       リンダ・アッテンドーフ     2007年

この映画の主人公、ジミー・ミリキタニは最初、ニューヨークの路上で
寝起きしながら、一心不乱に絵を描いている。絵の題材は、猫、第二
次大戦中の日本人強制収容所、そして原爆投下後のヒロシマ…。
彼、ジミー・"ツトム"・ミリキタニは、アメリカ生まれ、広島育ちの日系
人画家なのである。

これは客観的事実(と呼ばれるもの)を記録するだけがドキュメンタ
リーではないということのひとつの証明でもある。なぜなら、この映画
の取材中に9.11同時多発テロが起こり、高層ビルが焼け焦げた結果、
ニューヨークの路上は有害なガスが充満した。彼は一連の事件を意
に介さず、絵を描き続けていたが、監督のリンダはジミー・ミリキタニ
を自宅に招き、奇妙な共同生活を始めるのである。

まあそういうわけで、何の予備知識もなく観たが、「反骨」という言葉が
実にしっくりくるミリキタニさんの非常にクセのあるキャラクターが魅力
的な佳作である。

                                    11.3(木) BSプレミアム


2011年11月2日水曜日

毎日が夏休み


☆☆☆★        金子修介      1994年

脚本は、コメディとしてよく練られているし、非常に巧い。演出にも
疑問はとくに無いし、佐野史郎をはじめ役者も好きなのが出てい
る。なのに、なぜか「愛すべき映画」と思えないのは、壊れてゆく
家族という題材のせいなのか。最後には再生(?)するので、救い
はあるんだけど、なんとなく気まずい映画だった。

                                          10.30(日)   BSプレミアム