2011年4月2日土曜日

悪童日記

アゴタ・クリストフ 著        ハヤカワepi文庫

これはたしかに凄い。ここまで平易な言葉で書かれた戦争ってあるだろ
うか。徹底的に平易な言葉を選択するのは、ちょっと村上春樹を思い起
こす。明らかに第二次大戦中のハンガリーを舞台にしながらも、「大きな
町」「小さな町」などと、寓話的な要素を盛り込んでいるのも、どことなく春
樹好みのやり方だろう。

本書は、避難所で読んだ。大地震が起きたとき、私は帯広出張の帰りの
電車の中だった。白糠で停車中に揺れを感じた。震度3~4ぐらい。揺れ
がおさまるとすぐに車内アナウンスがあり、「避難所に誘導いたします」と
のこと。せいぜい4ぐらいの震度で、なにをおおげさな、これだからJRは、
と思いながら、しぶしぶ駅員に付いていった避難所の体育館でテレビを見
て、愕然とすることになる。緊急ニュースでは「震度7」という阪神大震災以
来聞いたことの無い震度を告げている。地震による被害の詳細はその時
点では分からなかったが、ヘリから撮ったリアルタイムの津波による激甚
な破壊の様を見せられて、茫然と時間は過ぎ、気付くと1時間以上もテレビ
を見つめ続けていたのだった。

結局その日は、大津波警報が出続けていたため、電車は動かず、道路も
通行止めで、おまけに電話も繋がらない。避難した体育館に泊まるしかな
かった。
眠くないし、話す相手もいないので、ひたすら『悪童日記』を読んでいた。20
分おきにニュースを見るために立ったりしていたが、不思議と読み始めたら
集中できた。読む本が無かったら危なかった。帯広に大きい本屋があった
ので、感動して思わず3冊買ったうちの1冊が本書だった。初めての土地で
本屋に入ると必ず記念に何か買ってしまう性癖がこんなところで役に立った。

ということで『悪童日記』はおそらく生涯、あの白糠の寒い避難所で過ごした
一夜と分かちがたく結びついた小説となるだろう。私など、たった一夜で済ん
で幸運なほうだというのは分かっているのだが。

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