2011年2月28日月曜日

冷たい熱帯魚

☆☆☆★      園子温    2011年

容赦の無い映画を作るひと、説得力をもって「狂気」を描ける
ひととして、大好きな監督。「奇妙なサーカス」「紀子の食卓」
「愛のむきだし」どれも大傑作だと思う。「気球クラブ、その後」
も愛すべき佳品だった。

園監督の新作。早くも今年のナンバーワンを観てしまうことを
覚悟して観に行ったのだが…。
決して悪くはないし、いつも通りの園作品といえばそうなのだ
けれど、もう一歩ノレなかったのであった。
主役を完全に食ってるでんでんは最高だったけどなー。

もう次の公開も決まっているらしい。水野美紀主演で「恋の罪」
というらしい。
こっちか。こっちがナンバーワンか。

                                                                  2.28(月)  テアトル新宿

2011年2月26日土曜日

ふたり

☆☆☆★★    大林宣彦    1991年


赤川次郎の原作を、舞台を尾道に変更しての映画化。
原作は中学のときに読んで、結構好きだった記憶がある。
今読んでも面白くはないと思うが。
成績優秀のうえ美人のお姉さんと、引っ込み思案で、成績
も中ほどで、目立たない妹のふたり姉妹。姉は突然事故で
死んでしまうが、妹が暴漢に襲われた時に、幽霊として現れ、
妹を救う。以後、妹と、姉の幽霊との共同生活が始まるが…
という完全な得意分野で、ノリにノッてる感じの大林監督。
少年少女のファンタジーを撮らせたらまず右に出る者はない
だろう。ファンタジーって往々にして、観てるそばからくだらな
いという思いが先行してしまって、性格的に合わないものが
多いが、大林監督のマジック・タッチを経たものは、すんなり
世界に入っていけるから不思議である。
妹を演じるのは新人・石田ひかり。ささやくような気だるい喋
り方が最初はイラつくが、だんだんとささやいてくれないと物
足りなくなる。


                             2.24(木)   DVD

DOCUMENTARY of AKB48 to be continued… 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?

☆☆☆★★    寒竹ゆり    2011年

このドキュメンタリー映画に言いたいことはけっこうあるのだが、
まずは意外とおもしろかったということを報告せねばなるまい。
構成の勝利、であろう。
一人づつのインタビューでおもに構成されているが、二十歳にも
ならない彼女らに、尺がもつような話がそうそうあるはずもない。
しかし、なんせいくらでもメンバーが居るので、一人ひとりの時間
が短くても大丈夫、というのがミソである。おもしろい部分だけ
ちょっとづつつまんで、たまに岩井俊二そのものな感じの「木漏れ
日を浴びる美少女」がはさまれる。岩井さんがちっとも新作を発表
しないので、「あー岩井さんだなぁ」という感じで、ちょっといい。

                        2.23(水) ワーナーマイカルシネマズ釧路


ヒア アフター

☆☆☆★    クリント・イーストウッド    2011年

現実に大津波が日本を襲ってしまったので公開中止となった
イーストウッドの最新作。たしかに、仙台の石巻を襲う現実の
大津波をテレビで見ながら、まっさきに思い出したのは本作
の津波のシーンだった。すさまじい災害が起きていることは
理解できても、なんだか現実感が無かった。

映画としては、静謐な映画。薄味、かもしれない。
「Here after」映画の中で「来世」と訳されていたけども、ここは
やはり「死後」じゃないのか。

                        2.20(日) ワーナーマイカルシネマズ釧路

RED

☆☆★★★    ロベルト・シュヴェンケ    2011年

製作者には悪いけれど、特にどうということもない映画。コメント
すべきことは思い付かない。引っ掛かりのない映画というのが
いちばん始末に困る。

                        2.13(日) ワーナーマイカルシネマズ釧路

ザ・タウン

☆☆☆★    ベン・アフレック    2011年

ボストンの犯罪多発地域に暮らす若者たちのやるせな
い感じの話。銀行強盗で派手に稼いでいる彼らの、破
滅までが語られる。シリアスかつスピーディな展開で、
じゅうぶんに重みと迫力があり、飽きさせない。
実力あり、でしょうな。

                           2.11(金) ワーナーマイカルシネマズ釧路

2011年2月23日水曜日

カメレオン

☆☆☆★      阪本順治      2008年

最近は民放のBSを録画して観るのを楽しみとしている。
今まで知らなかったのだが、EPGをよく見ると、わざわざ
借りて観はしないような、でもちょっと観たい気はしてい
た映画をけっこうやっている。レンタルビデオ屋では選ば
ないけども、やってるなら観ようか、というぐらいの。

本作もまさにそんな感じの作品。もともと松田優作にアテ
書きされていた丸山昇一の脚本(「カメレオン座の男」)が
あり、松田の急死でお蔵入りしていたそのホンを、藤原
竜也の主演でよみがえらせたもの。らしい。全部観た後
で知った。
けっこう楽しく観たのだが、そう言われてみると、松田優作
の方がもっと「すごみ」が出て良かったんじゃないかという
気になってくる。いくつも死線をくぐり抜けてきた元傭兵で、
いまはケチな詐欺で稼いでいるが、本気で戦えば恐ろしく
強いという役柄なので、藤原竜也じゃあ、うーん、という感
じはたしかにある。いかんせん死人が相手だから藤原竜也
もツライな。

                                                2.5(土) BS JAPAN

2011年2月21日月曜日

リンダ・リンダ・リンダ

☆☆☆     山下敦弘    2005年

BaseBallBearの関根嬢が出演していることを小耳に
はさんだので、借りてきた。そうか、ベースを弾く女子
高生の役か。そのまんまだな。えーと、素人なりにが
んばってたと思うよ。

映画について。もちろん山下監督のことだから「敢え
て」やってるんだろうけど、「映画のカタルシス」に至る
のをわざとかわしているような、そっちに行かないよう
に、気持良いほうに流れないように気を遣っているよう
な感じを受けた。女子高生がバンドを組んでブルーハー
ツを歌い倒すという題材を選んでおきながら、なぜわざ
わざそんな面倒なことを…と思わないでもない。安易な
青春文化祭映画にしたくなかったということだろうか。
にしても、カタルシスの代わりに何か心に刺さってくるも
のがあったかというと、特に無いようで、物足りないのは
否めない。

                                           1.30(日) DVD

2011年2月4日金曜日

[最近読んだ本 まとめて②]

『楽園への道』  マリオ・バルガス=リョサ  河出書房新社

ひさびさに小説好きの血が騒いだ。読むのをやめられない大
長篇ほど好きなものは無い。寝る前に「今日も続きが読める」
とウキウキしながら1章か2章を読む。「もう1章ぐらいいける気
がするけど、今日はこのへんでやめとくか」と本を伏せ、布団
をかぶってすやすや寝る。これぐらい幸せなことはちょっと無い。

この小説は簡単にいえば、ゴーギャンの章と、ゴーギャンの祖
母で女性解放に奔走した革命家フローラ・トリスタンの章が交
互にあらわれるいわば「村上春樹形式」(違うか…)。ただ、語
り手の存在がちょっと変わっていて、たとえばフローラの章だと
「あのときのお前は怒りのあまり前後の見境をなくしていたよね、
フローラ」という感じで、地の文の途中でやたらフローラに語り
かける。ゴーギャンの章も同様。「えーそんなのうるさい」と思う
かもしれないが、ノンノン、これがなかなか癖になってくる。もう
語りかけない本が物足りなくなってくる。というのは嘘だが、この
慈愛のこもった「語りかけ」がけっこう効いている。

ゴーギャンの小説といえば、当然サマセット・モーム『月と六ペン
ス』が自動的に想起されるが、そこはうまいことカブらないように
棲み分けがなされている。『月と六ペンス』はゴーギャンとその気
の毒な友(ストリンドベリ、だっけ)の話が中心だったと記憶してい
るが『楽園への道』はタヒチに移り住んでからのゴーギャン、奔放
に生きながら絵を描きまくり、やがて病を得て衰弱して死んでいく
ゴーギャンの姿を中心に据えている。大柄で野獣めいた、無礼な
男、という描写は両方に共通しているにしても、小説を通して立ち
上がってくるゴーギャン像はだいぶ違ってくる。
小説としてのドライブ感に関しては『楽園への道』に軍配があがる
か。読んでてとにかく血が騒ぐのである。

※「ストリンドベリ」じゃなかった。ゴーギャン=ストリックランド、その
気の毒な友人=ストルーヴでした。ちなみに僕は光文社古典新訳
文庫で読みました。あの文庫シリーズは応援しないわけにはいか
ない。

『A3』  森達也  文藝春秋

森達也入魂の、必殺の、しかし平熱の『A』シリーズももう3作目。
『A』『A2』はドキュメンタリーを手法とした映画だったわけだが、3作
目は活字。まあ森さんは既にほぼ執筆業にシフトし終わった感が
あるので、もはや不思議なことではないが。
麻原の死刑判決に焦点を絞って、徹底的に書きまくった本作。
一個一個、慎重に石を積み上げるような論の展開には、かなりの
説得力がある。「おもしろい」という言葉を使うには、実際の死者が
多すぎ、実際の死刑囚が多すぎるが、しかし1冊の本として、実に
おもしろいのである。


『夢を見るために 毎朝僕は目覚めるのです』
村上春樹  文藝春秋

昨年出たインタビュー集。出た直後に半分ぐらい読み、同じ内容
の受け答えが頻出するのにいったん飽きて、しばらく冷却期間を
置いた。3ヶ月ほど英気を養って、今度は無事に読了。いや、つま
んないってことじゃないよ。もちろん。ただどっかで聞いたような話
がたいへん多い。色んな国で受けたインタビューがあるので、しょ
うがないといえばしょうがないが。春樹が29歳の春、神宮球場で
ヤクルト戦を見ていて、1回裏にデイブ・ヒルトンが2塁打を打った
瞬間「そうだ小説を書こう」と思い立って書いたのが『風の歌を聴
け』であることを知っているひとばかりでないのは分かっている。
ファンにとってはほんとに100回ぐらい聞いた話なので誰でも知っ
ているのだが。


2011年2月3日木曜日

[最近読んだ本 まとめて]

年末年始にかけて、実は色々読み終わっていたのだけど、
感想を書くのが億劫で放置されていた。本の感想って映画
よりずっと面倒である。なんでだろう。

『ハイスクール1968』  四方田犬彦  新潮文庫

知的エリートが集まる教育大附属駒場高校(現在の筑波大
附属駒場高校)の中でも頭が良くて仕方なかった(らしい)
四方田犬彦の、スノッブで鼻持ちならない青春譚。しかしこ
れがけっこう面白い。いわば名作『先生とわたし』の高校版
であって、あちらが由良君美という知の怪物みたいなひとを
中心に据えて成功していたのに対して、本作は何もかもが
おもしろくない高校生のフラストレーションみたいなものが
常につきまとい、若干うるさいきらいはある。
実名を出されたかつての級友たちによると、事実誤認も多
いようだ。しかし、一種のフィクションと考えて「ある知的エ
リートの敗北と挫折の記」として読めばじゅうぶんおもしろい。
のちに映画評論家となる氏が高校時代に夢中になったという
洪水のような音楽・文学・映画の列記には、思わずにやにや
してしまうのである。

『読書癖 1』  池澤夏樹  みすず書房

おもに新聞に書いた書評で構成されている。しかし、うーむ、
いま内容をほとんど忘れてしまった。1ヶ月でこうも忘れるもの
か。なんか情けないぜ。

『さよなら渓谷』  吉田修一  新潮文庫

早く『悪人』を読みたいのだけど、文庫本の表紙が映画に合わ
せた表紙(妻夫木くんと深津絵里のアップ)なので買うことがで
きない。私は映画版の装丁の文庫本が嫌いである。あれは装
丁とは呼べない。たぶん1冊も持ってないと思う。まあしばらく経
てば元に戻るので、その時を待つことにする。
代わりに本作を読む。吉田修一の何がいいってこの安心して読
める文章がいい。本作も、なんだか深そうな男女の業みたいな
感じだったが、とにかく相変わらず良い文章だった。以上。

札幌から釧路に戻る電車で一気読みしたが、読み終わってもま
だ帯広だったのには驚愕した。この距離感が分かるのは、住ん
でるひとだけだろうけど。

『パンドラの匣』 太宰治 新潮文庫

「パンドラの匣」「正義と微笑」を収める。
太宰の文体は非常に好きである。ひょんなところから変な単語が
飛び出してきて、それがぴたりと嵌っているのが良い。天才なん
ですなー。
映画を観てから原作を読むことはあまりしたことがないが(逆は
よくあるけどね)、「パンドラの匣」は先に映画(冨永昌敬 監督)を
観ていた。映画はたいしたことなかったが、結論からいえば、これ
はあまり良くないね。マア坊は仲里依紗、竹さんは未映子さんの
姿がちらついて一向にダメだった。イメージが限定されるようで、
不愉快までいかないが愉快ではなかった。

『つげ義春コレクション』1~3巻  筑摩書房

漫画界の純文学、つげ義春。同期が全巻持っているので、少しず
つ貸してもらっている。1~3巻では「ねじ式」「沼」「ゲンセンカン主
人」など、有名どころがだいたい網羅してある。いやおもしろいね。
特に良いやつは、読み終わったあとのヒンヤリとした心持ちが、優
れた純文学を読んだときに似ている。「沼」なんてのは思わず何度
も読み返してしまった。ちなみにここでは芥川賞の銓衡範囲にある
ものを純文学と言っております。


2011年2月1日火曜日

ソーシャル・ネットワーク

☆☆☆★★★    デヴィッド・フィンチャー   2011年

実在の人物、しかも同時代に現に生きてる人間を題材によく
ここまでやれるものだ。facebookの創始者マーク・ザッカーバ
ーグを「欠陥を抱えた天才」というよりはほとんど「最低の人間」
として描写する本作。
新作なので内容を詳しく書くことはしないが、評判通りの秀作
で、私は非常に満足した。勝因は、何を措いても主役(ジェシー
・アイゼンバーグ)の一世一代の好演。もう彼にはマーク・ザッ
カーバーグの青白いオタクのイメージがついてしまって、能天
気なサーファーの役とかは金輪際来ないんじゃないかと余計
な心配をしてしまうほど素晴らしい演技。と思って、何気なく彼
のフィルモグラフィーを見ると、「イカとクジラ」という懐かしい映
画が。あ、あのピンク・フロイドの「hey you」を自分の曲として
文化祭で歌っちゃうお兄さんだ。あれも青白い高校生の役だった。

あとは、構成が凝っていて、時系列のいじくり方もけっこう面白い。
サブキャラたちがなかなか印象的。音楽がトレント・レズナーとい
うことで、注意して聴いていたが、かなりカッコいい音世界で、非常
に良い。などなど、良かった点はいろいろあれど、まあ題材と主役
が決まった時点でもう勝ったようなもんかもね、この映画。
そんな簡単なもんでもないかもしれないけど。

                               1.29(土) ワーナーマイカルシネマズ釧路