2010年9月29日水曜日

永遠と一日

☆☆☆     テオ・アンゲロプロス   1998年

岩波ホールが似合う映画。『霧の中の風景』からは10年
経っているが、まあ良きにつけ悪しきにつけ、相変わら
ず、である。
興味を惹かれるのは、まずは極端な長回し。今回カット
の切れ目を意識しながら観ていると、その「割らなさ」と
いったら、意地になっているとしか思えない。長回しは好
きだし、たしかにアンゲロプロスは巧いが、ほとんど全て
のカットがそうなのはどうなんだろう。
そして、長回しに次ぐ長回しの合間に、すっと異物をまぎ
れこませて印象的なカットにしてしまうのが、この人のや
り方のようだ。主人公の乗るバスに三重奏の楽団が乗り
込んできたり、豪雪の国境地帯(こんどはトルコとの)の
金網にたくさんの人が貼りついていたり、子どもが妙に
厳粛な詩を口走ったり……と書いていていま気が付いた
が、「国境」「バス」「子ども」「詩」って『霧の中の風景』と
まったく一緒やん!

今回はタイトルが良い。相変わらずキャッチーでは全然な
いが、映画を観るとこの「永遠と一日」という言葉がけっこ
う染みる。

                                                      9.27(月)   BS-2

2010年9月28日火曜日

霧の中の風景

☆☆★★★     テオ・アンゲロプロス    1988年

「文化人」が好みそうな映画。皮肉な意味も多少こめて。
「叙情的」というのか何と言うのか。意味ありげな間、意味あり
げなロングショット、意味ありげな引用。そして象徴として語り
やすそうなオブジェ。曰く、国際急行列車、古いバス、石像の
手、雪、大木など。

幼い姉と弟が、ドイツに居るというまだ見ぬ父親をさがして、
ギリシアから国際急行に乗って旅する、れっきとしたロードム
ービーである。こないだロードムービーが好きだと言ったばか
りだが、これは今までに観てきたロードムービーとはかなり趣
きが異なる。「静謐」なロードムービーといったら良いか。
アンゲロプロスがとても特異な映画的空間を創り出しているの
は確かなのだけれど、それが心地よいかといえば、全面肯定
しかねるところである。
しかし、あのどうしようもないタルコフスキー(このブログでは完
全に悪役だな)と違って、深く焼きつくような印象的なシーンも
いくつかあった。そのシーンについては全面肯定したい。とく
に、国境近くの砂浜で青年と女の子がロックに合わせて踊ろう
とするシーンは、まぎれもなく美しいシーンであった。

                                                            9.25(土)   BS-2

2010年9月26日日曜日

モル

☆☆☆          タナダユキ       2002年

タナダユキ監督のデビュー作であり、主演作。ばっちり
ヒロインを演じている。他の役者の素人っぷりは見たこ
とがないほどで、映像も音も安っぽい中で、ひとりタナダ
ユキの可愛さと、そこそこできる演技がひたすら際立つ。
けれどももちろんそれだけではPFFのグランプリは獲れ
ない。
本作は、生理になると飛び降りようとしている自殺者と
目が合ってしまう女の子が主人公で、ところどころに秀
逸なギャグをはさみつつ、最後はなかば強引にタイトル
の「モルモット」でオチをつけるという、いかにも才能が
ありそうなのが分かる感じの映画。ちゃんと予算をつけ
れば面白いものを撮るんじゃないかという気が俺でもす
る。まず可愛いし、ね、タナダさん。

                                                9.23(木)   DVD

2010年9月22日水曜日

続・男はつらいよ

☆☆☆★★         山田洋次  1969年

「男はつらいよ」の2作目。当たり前なんだが、さくらの子ども
の満男はまだ生まれたてである。そして寅さんのキャラもそ
んなに固まっていない。ヤクザものの雰囲気を濃く残してい
るし、その割に本作ではよく泣く。実の母親(ミヤコ蝶々)に
会っては泣き、とらやに帰ってからも泣き、女(佐藤オリエ)
にフラれては泣き、とやけにメソメソしている。おいちゃんお
ばちゃんも、久々に帰って来た寅次郎に「寅さん」と呼びか
ける場面があり、まだまだ遠慮がある。
まあそんなことは別にどうでもよくて、初期らしい密度の濃い
寅さんであり、観ているだけで幸せな気分になる。椅子によ
りかかって倒し、照れ笑いをしながら障子にもたれかかって
そのままスライドして庭に落ちる、というドタバタの名人芸も
見れる。
役者もなかなか豪華で、ギラギラしている山崎努と、黒澤映
画の超常連・東野英治郎の登場がうれしい。そして何といっ
ても倍賞千恵子の可愛さは異常。キム・ヨナは、かの国では
「国民の妹」と呼ばれているそうだが、元祖・国民の妹は断然
こちらである。

                                           9.19(日)   DVD

2010年9月20日月曜日

あの夏、いちばん静かな海。

☆☆☆★★★          北野武  1991年

近くの車で5分のTSUTAYAには置いておらず、近いゲオにも
なく、やむなく遠い方のゲオでようやく発見。即ゲオに入会し、
借りて帰って、すぐに観た。そんなことをしてる間にこの作品
への期待が結構高まってしまっていたのだが、そんなものは
やすやすと跳び越えていくような、素晴らしい傑作だった。こ
の映画に「あの夏、いちばん静かな海。」と名付けたたけしに
震えた。
聴覚障害の主人公が、壊れたボードを拾ってサーフィンに夢
中になるだけの話。しかも夢中になりすぎて最後死ぬ。なの
になぜこんなに幸福に満ち足りた気分で画面を見続けていら
れるのか、細かく分析していけば理由はわかるのかもしれな
いが、「理由はわからない」でいい気がする。セリフの少なさ
は異常なほどで、タルコフスキー並だが、あちらが20分も耐え
られず眠くなるのに対して、本作は100分で終わるのが惜しい。

「その男~」「3-4x10月」、本作、ときて「ソナチネ」である。
ほんとにどうかしてる。

                                                        9.18(土)  DVD

2010年9月16日木曜日

夏至

☆☆☆     トラン・アン・ユン  2000年

「ノルウェイの森」の予習ということで、借りてきた。

なんだか摑みどころのない映画だった。
ハノイに暮らす家族、とくに三姉妹を中心に据えて話は
ゆっくりと進む。肌と髪がたいへんに美しい三姉妹で、
独特のライティングによるアジアな感じの映像美と相まっ
て、姉妹が髪を洗っているシーンなんていうのは、特別
何も起きないが艶めかしい。
映像は良い感じなのだが、いかんせん話がよくわから
ん&つまらん。淡々とするにも程があるんじゃないか。
まあ、でもあの村上先生が認めた監督であることだし、
もう1本観てから判断することにしよう。

それほど感心しなかったこの映画だが、私の音楽ライ
フにはけっこうな影響を与えた。兄妹が朝「目覚める」
というシーンが何度も反復されるのだけれど、その時
になんか良い曲が流れてるな、と思ったら、ルー・リー
ドの曲であった。そこで、実にひさしぶりにヴェルヴェッ
ト・アンダーグラウンドのMDを引っ張り出してきて、昔
は何がすごいのかさっぱり分からなかった例のウォー
ホルのバナナのジャケットのアルバムを聴いたら、す
こぶるカッコいいではないか。
今日に至るまで毎日バナナのアルバムを聴いている。

                                             9.11(土)   DVD

2010年9月14日火曜日

ナチュラル・ボーン・キラーズ

☆☆☆        オリバー・ストーン   1994年

名作、と言われるけど私はいまひとつ肌に合わなかった「俺たちに
明日はない」を、より残酷に、よりサイケデリックに、より大げさにし
た上でそれを一度ズタズタに切り刻み、色んな映像を混ぜ合わせ
てぐちゃぐちゃのまま仕上げたような作品。自分はどうも、カップル
が道行く人を殺しながら逃避行するのがカッコいいと思えず、全然
ノレなかった。刑務所に入ってから、ちょっと面白くなってきたと思っ
たが、インチキタレントのインタビューのくだりが始まると、もうダメ
だった。サブリミナル的にインサートされる各種のイメージも、なん
だかだんだんうるさくなってくる。
脚本にタランティーノ先生が参加していて、なるほどそれっぽい話
だが、先生の監督作には到底及ばず。観ている最中から、「レザ
ボア・ドッグス」が観たくなって困った。

                                                           9.10(金)  Blu-ray

2010年9月11日土曜日

夏の朝の成層圏

池澤夏樹 著    中公文庫


池澤夏樹のデビュー作、とのこと。
実はよく知らないまま、同期が貸してくれたので読んだ。
独り暮らしにしては立派な5段組の彼の本棚を前に、「何か貸せ」と言っ
たら、池澤夏樹を偏愛する彼が(たぶんテキトーに)これを選んだ。
マグロ漁船を取材中に船から落ちた新聞記者が、無人島に流れ着いて、
そのへんの椰子の実とかバナナとかでひとまず生活する、という話で、
現代の文明社会に生きるわれわれが一度はやってみたい(ですよね?)
生活が描かれる。文明から隔絶された所で生活してみたい、という漠然
とした憧れを刺激されて、読んでいて楽しかった。厄介な虫とか猛獣も
居ない南の島ということなので、なおさらである。
会話する相手がいないため、地の文がずーっと続くが、なかなか文章が
巧い。デビュー作にして、たいしたものだと思う。
芥川賞をとった「スティル・ライフ」より面白いんじゃないかと思った。

【業務連絡①】

本については、採点はしないことにする。
小説やら評論の採点をするのは難しいし、なんとなく嫌だというのもあ
る。『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』と『1Q84』のどれが一番
高得点ですか、と言われても、とてもじゃないが私には決めかねる。
それに本の場合「最後まで読んだ」ことが「ある程度おもしろかった」
ことを保証している、というのも理由のひとつ。
つまらなくても2時間で勝手に終わる映画と違って、本は読むのにはる
かに時間がかかる上に、内容を頭に入れながら、ページをめくって自分
で先に進めていかなくてはならない。そのぶん、途中で投げ出しやすい
メディアであると考える。読みながら「これつまんねーなー」と思ったわけ
でもないのに、ふっと気付くと「あれまだ途中だったのに、しばらく読んで
ねーな」ということがたまにある。無意識に投げ出しているのである。
そういう場合はブログには上がってこないので、ここに上がった本はまあ
まあ面白かったんだなと思っていただいて構わない。めちゃくちゃおもし
ろかった場合は、そう書く。

2010年9月6日月曜日

菊次郎の夏

☆☆☆★             北野武   1999年

自分がロードムービーに甘いのは自覚している。
ロードムービーっていうだけでなんで面白く見えてしまう
のだろう。
本作も、別に悪口をいうほど悪いわけでは全然ないが、
「気の抜けたビール」ならぬ「気の抜けた『ソナチネ』」
だろう。川原での暇つぶしのシーンで「ソナチネ」を思い
出さないたけしファンは少ないと思うが、たけしはそれを
承知の上でやったのだと思う。「ソナチネ」を超えようと
したのか。まあそれは分からないが、「ソナチネ」には遠
く及ばないのは確か。
しかし、繰り返すが全然悪くないし、たけしのショートコ
ントの連続みたいで面白かった。敢えてツボを挙げるなら、
岸本加世子ってこんなにガラの悪い下町のオバハンの格好
してもけっこう似合うな、という所。豹の顔が入った服で
岸本さんに真面目に演技されたら、笑うしかない。
いやあ、ロードムービーってなんで面白いんだろうな…。
あるいは俺の潜在意識が旅行したがっているのかもしれな
い。

つれづれなるままに、好きなロードムービー…

パリ,テキサス、カナリア、都会のアリス、
リトル・ミス・サンシャイン、ドッペルゲンガー、
モーターサイクルダイアリーズ、
男はつらいよ、もある種のロードムービーかな…

                                                        9.5(日) DVD


2010年9月5日日曜日

ブギーナイツ

☆☆☆        ポール・トーマス・アンダーソン   1997年


ひさびさに洋画が観たくなって借りてきた。
Paul Thomas Anderson(略してPTA)が今までに撮った5作の
うちの1本。寡作だが、大長篇が多いのがこの人の特徴。まあ
寡作といってもまだ40歳。もうすでに巨匠の感があるが。

本作は、類まれな巨根の持ち主である主人公の青年が、ポル
ノ映画界の巨匠にその才能(まあ一種の)を見出され、大成
功して栄華をきわめ、調子に乗り、思い上がってドラッグに
溺れ、転落して地に堕ちていく様を、ポルノ界の風変わりな
人物たちと80年代のヒット曲でいろどった一大群像劇。
期待して観たが、評点はあまりふるわず。理由は途中で眠く
なったから。たまに恐ろしく長い長回しが出てきてハッとす
るが、ストーリーの流れにどうも新しさが感じられなかった。
ただ、27歳でこれを撮ったPTAに才能があるというのは間違
いないだろうと思いながら観ていた。私は本作と、一番新し
い「There will be blood」を観ただけなので、残り3作ある。
楽しみはまだ残っているということだ。

                                                               9.3(金) DVD

2010年9月1日水曜日

借りぐらしのアリエッティ

☆☆☆★            米林宏昌  2010年

なかなか良かったよ。うん。
映画より先に、NHKのドキュメンタリーを見てしまい、
わずか4秒のカットにも30枚以上の絵が使われている
こととか、マロさんの年末年始も返上の終わらない苦
しみをたっぷり見た後で「なかなかだったよ」とは、
本人に面と向かってはとても言えないが、ここはブロ
グなのでしょうがない。
この「お話」を成立させるためには、アリエッティが
身の危険をかえりみずに恋してしまうほどの人間的魅
力が、翔くんにあるかということが大事だが、そのへ
んはちょっと厳しかった。単なる「素直な子」だよな、
あれじゃあ。

8.29(日)  ワーナーマイカルシネマズ釧路

FRIED DRAGON FISH

☆☆★★             岩井俊二   1996年

高校生のとき以来の再見。当時は面白く思ったように記憶していたが、
今観るとどこが面白かったのかよく分からない。
画面は安っぽいし、演出もうまいとは言い難く、単調だと思った。二十歳
の浅野忠信の放つ存在感だけがかろうじて画面を支えている。
岩井俊二は高校のときに熱中して、アホみたいに観た。ひととおり全部
観たと思う。そのときは何といっても「リリィ・シュシュのすべて」が1番好き
で4回は観たが、熱が冷めた数年後に観てみるともうあまり感心しなかっ
た。観返してもちゃんと面白かったのは「Love Letter」「花とアリス」「スワ
ロウテイル」ぐらいか。「undo」とか、もう一回観てみたい気はする。

                             8.28 (土) DVD